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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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621回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 415: 祈る神のないこの国で

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 鐘塔から鐘の音が怪しく鳴り響中、フェルディナンドが悲しい顔で街を見下ろしている。


 彼の実験都市の住民達はあの鐘の影響でみな自我を失い、生きる屍のようにされてしまった。


「このままではこのヘルズベル全てが同じような状況にされるでしょう」

 消沈するフェルディナンドにピエロのスタンが声をかける。


「エロイーズの暴虐を許してはなりません」

 フォンターナ派貴族がスタンに続く。


「機は熟しました、あとはあなたの決断だけです」

 スモーカーはフェルディナンドに決意を問う。


「僕の選択がみんなの命運を決める、その命の責任を負うのが僕の役目……」


「背負えますか?小王様。全てを投げ出して逃げ出すこともできますが」


 スタンはフェルディナンドが逃げる為の退路を確保した上でそれを聞いている。

 フェルディナンドはそれがわかった。


 スタンは自らの発言の全てに責任を持っている。

 逃げるかどうか聞くのも、彼なりの誠意なのだ。

 その誠意に甘えるのは容易い、しかしここで他者に依存するような者にこの場にいる資格はない。


 フェルディナンドはかつて実験都市に暮らす子供から受け取ったお守りを握りしめ、意思を固めた。


「叔母様をこのままにはしておけない。このフェルディナンド、ヘルズベル王族として責務を果たす」


 彼の言葉にフォンターナ派の貴族達は色めき立った。


「今からこの命の全てをヘルズベルに捧げる。だからどうかみんなの力を貸して欲しい」

 その場に集った貴族達は皆フェルディナンドに傅いた。


「フェルディナンド陛下の仰せのままに」


「フォンターナ様の仇を!」


「ヘルズベルの未来を勝ち取りましょうぞ!」


 力強い貴族達の言葉と期待を背負いながら、フェルディナンドの目には揺るがない決意の光があった


 フェルナンドはスタンを一瞥すると、彼に耳打ちする。


「君のしたことを許すつもりはないよ」

 スタンがフェルディナンドの目を見ると、彼は静かに突き刺すような目をしてスタンを見つめていた。

 そんな彼にスタンは微笑む。


「実に素晴らしい」


 実験都市の現状はスタンの暗躍による誘導の結果だった。

 フェルディナンドは彼の細工を見抜いたのだ。


 それはスタンのフェルディナンドに対する最終試験のような物だった。

 臣下の企みに気づかない様な愚鈍な男であれば王たる資格はない。


 祈る神のない国において、王とは絶対的指導者である必要がある。

 状況を正しく認識し、先を見通し決断する力、そして目的の為に清濁併せ呑む器量を持つフェルディナンドならば、ヘルズベルを上手く統治していくだろう。

 そしてスタンはそんなフェルディナンドにある少年の姿を重ねていた。


「本当に貴方は彼によく似ていらっしゃる」

 しみじみとスタンは呟く。


「お父様の事?」


「お兄様ですよ、剣闘士山桐雄馬は貴方の兄です」

 そう言うとスタンは微笑んだ。

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