620回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 414:わたしのヒーロー
異音をさせながらロビンの体が一気に膨れ上がる。
ロビンは白い毛皮を引き裂き、異形の魔獣ジャバウォックに変貌した。
それは身の毛もよだつ雄叫びを上げ、棄獣の姿を睨み付ける。
ジャバウォックの召喚デメリットによりアリスのHPが急速に減り始めた。
HPが尽きればジャバウォックは消滅し、HPによるバリアも消失しアリスを守るものはなくなる。
文字通り最後の手段だ。
ジャバウォックが迫る棄獣を爪で抉ると、棄獣の左腕と胸部の左半分が消し飛び、棄獣は鼓膜をつん裂くような甲高い悲鳴をあげた。
その声に引き寄せられたかのように誘拐犯達がその場に押し寄せ、棄獣の放った触手に取り込まれて棄獣の傷を埋めていく。
「ヒッ!?」
エスメは青ざめアリスにしがみつく。
自分が何をされようとしているか理解したらしい、彼女は震え上がっている。
ジャバウォックの力をふるえばヘルズベルにプレイヤーがいるのがバレるかもしれない、だけどそんな事は後で対応すればいい。
エスメを守りたい、アリスにはそれしか考える余裕がなかった。
棄獣とジャバウォックの激しい攻防が続く。
ジャバウォックの優勢に見えるが、依代は傷ついたままだ。ジャバウォックが動く度、その体から血を噴き出している。
棄獣の返り血も浴びて、二体の巨獣が血の海の中で戦うその姿はさながら怪獣戦争のようだ。
棄獣は集まってきた誘拐犯達全てを一斉に触手で貫き取り込む。
その背中が膨れ上がり翼が生え、棄獣は倉庫内を飛び回りながら火球を放ち始めた。
ジャバウォックが火球を爪で吹き飛ばし、雄叫びを上げ口から熱線を放って応戦。
戦いの余波で建物が崩壊しはじめた。
「アリス、このままじゃ生き埋めですわ」
「今のうちに外へ!走って!!」
アリスはエスメを連れて走り出す。
二体の巨獣が戦う横を抜け、出口が目の前に迫る。
「あっ!!」
天井が崩落しアリスはエスメを庇い突き飛ばす。
「キャストコール!紋章竜グゥイン!!」
その言葉と共にアリスは潰されるすんでのところで誰かの腕に抱き抱えられ脱出した。
アリスを助けたのはワイバーンに乗った陽介だった。
「待たせたなアリス」
「遅すぎだよ」
「たはは、まぁそう言うなって」
陽介はワイバーンを垂直上昇させ、崩落する大倉庫の瓦礫を交わしながら空に出る。
地上を見下ろすと無事に外に出たエスメの姿と、陽介たちに続いて飛び出した棄獣の姿が見えた。
地上からジャバウォックが棄獣を撃墜しようと狙っている。
アリスの残りHP的に最後の一撃になりそうだ。
「少し角度が悪いな」
陽介はジャバウォックを援護するためにワイバーンに火球をチャージさせる。
「あのさアリス」
「ん?」
「ありがとな、誕生日プレゼント。大切にするわ」
「ばか……こんなとこで言わないで」
そう言いながらアリスは顔を優しく綻ばせる。
陽介はそんなアリスを見て満足げに笑うと、ワイバーンに火球を吐かせる。
火球の激突で棄獣が止まり、ジャバウォックの熱線が両断する。
コアを失った棄獣は空中で消滅した。
地上に降りたアリスにエスメがにやにやと笑いかける。
「アリス、あなたが誘拐されても動じてなかった理由、わたくしなんとなくわかってしまいましたわ」
エスメはそう言いながら、瓦礫の中で何かを探す陽介の姿を見る。
アリスもそれにならい彼を見つめる。
「おっあった!おーいアリス!あったぞー!!」
瓦礫の中から白兎ロビンを引っ張り出し、埃まみれになりながら満面の笑みで陽介はアリスに手を振っている。
「紳士を物みたいに扱わないでくれたまえ」
ロビンは耳を掴まれるのを嫌がり、陽介を必死でけりけりしている。
危険を顧みず、後先考えないで友達を助ける底なしのお人好し。
「本当にバカなんだから」
アリスは顔を綻ばせながら呟くと、陽介の元に向かった。




