619回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 413:面影に勇気を重ねて
「どうしてヘルズベルの街の中に……」
アリスがたじろいでいると、棄獣はエスメに向かい触手を突き出した。
アリスは咄嗟にエスメを庇い、見えない壁が触手を弾いた。
アリスは自分のHPが5分の1削れたのを横目に確認し、馬を棄獣にけしかけ距離を離す。
棄獣はガルドル文字に侵食された人間を取り込もうと狙う。
エスメは貴族だから、ガルドル文字を強制的に読まされているわけではないはずだ。
「エスメ、もしかしてガルドル文字読める?」
「え?えぇ、お仕事に支障がありますから読みましたけれど」
アリスは唇を噛んだ。
「なんですの?あの化け物は」
エスメのこの反応では壁の中の住民は棄獣の存在を知らないようだ。
そんな環境に放たれれば大惨事は免れない。
棄民闘技場の惨劇がアリスの脳裏によぎった。
棄獣と戦っていた馬が触手に叩き潰され消滅、棄獣の意識が再びエスメに向かう。
「アリス」
ロビンの声に視線を下にすると、アリスが抱きかかえていた白騎士がロビンに代わっていた。
ロビンは血まみれ、息も絶え絶えに口を開く。
「あれを使うんだ」
アリスはロビンにうなづく。
「エスメ、私の後ろに隠れてて」
ロビンがアリスを庇うように前に出る。
彼の眼前には迫り来る棄獣の姿がある。
「何をする気ですの?」
「悪夢を解き放つ」
そう言うとアリスはロビンに向かい手をかざす。
こんな時なのに怖さは感じない、アリスは薄々その理由に気づきつつあった。
アリスは心に彼を思い浮かべ、脅威に立ち向かう為に強く唱える。
「来て、ジャバウォック」




