615回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 410:友達だから
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アリス達は手足を縛られ薄暗い倉庫の中にいた。
周囲には木箱や荷物が乱雑に積み上げられ、天窓から入る光が埃っぽい空気をキラキラと光らせている。
「大の大人が数人がかりでうら若き乙女を誘拐だなんて、恥を知るべきですわ恥を」
エスメはプンプンと音が出そうなくらい怒りながら、自分を縛るロープを木箱に擦り付け、脱出を試みている。
「エスメはしっかりしてるんだね、普通こういう時怖くて落ち込んじゃいそうなのに」
アリスのその言葉にエスメはふふんとドヤ顔をした。
「上流階級の令嬢たるもの社交界のマナーはもちろん、誘拐された時の心構えも学んでいますの。毅然と振る舞い精神的主導権を渡さない事が重要です。というかあなただって誘拐されたのにずいぶん落ち着いていらっしゃいますわね」
「不思議と怖くないの」
なぜだろう?と思ったが、アリスは多分自分がプレイヤーだからかなと思った。
アリスは後ろ手にステータス画面を操りインベントリーから白兎ロビンを出現させる。
「はわっ!なんですのそのもこもこウサギは!」
「私のお友達」
「こんにちはアリス。なんだかご無沙汰?というかなんだいそれ、変わった遊びだね」
「誘拐されたの、縄ほどいて欲しい」
「あらら、それは大変だ」
そう言うとロビンはアリスを縛るロープをほどきにかかる。
「んしょ、んしょ」
丸っこい手はこうした作業に向かないようで、ロビンは手こずっている。
「帽子屋に頼んだ方がよくないかな?」
「帽子屋さんがやると私の体がバラバラにされちゃうもん」
「それもそうか、仕方ない。少しはしたないけどかじって取るよ」
ロビンの頑張りのおかげで、アリスとエスメは拘束から解放された。
「まぁまぁ、可愛らしいですわね」
エスメはロビンを抱きしめもふもふする。
「ああっいけません!いけませんったらアアーッ」
ロビンは悶えながら体をビクンビクンと痙攣させている。
「この子縫い目があるということはぬいぐるみなんですのね。虚空から所有物を取り出す力と言えばプレイヤーの力ですけれど……」
エスメはぐったりしたロビンを抱きしめながらアリスを見つめる。
「うん、私もプレイヤーなんだ。元々はメルクリウスで祓魔師をやってたの」
驚いた顔をしたエスメにアリスは少し悲しい気持ちになった。
敵国のプレイヤーだと知った以上友達ではいられないかも知れない。
それでもアリスはエスメに嘘や誤魔化しをしたくはなかった。
嫌われるとしても正直に話す、アリスにとってそれはエスメに対する友情の証でもあった。
「アリスかっけーですわ!」
「ん?」
思いもよらない返事にアリスは驚く。
エスメはキラキラした目でアリスを見ていた。
「私もプレイヤーになりたいですわ、こんな可愛いお友達も作れちゃうなんて素敵すぎますもの」
エスメは満面の笑みでロビンを頬擦りしながら言う。
そんな彼女を見てアリスは思わず吹き出してしまった。
「褒めてるのに笑うなんて失礼でしてよ」
「ふふっなんだか安心しちゃって、怖がられるんじゃないか不安だったから」
「みくびらないでくださいまし、わたくしお友達を怖がるなんて薄情な令嬢じゃありませんわ」
エスメはふふんとドヤりながら自慢の縦巻きロールを靡かせ、かっこつけたポーズをとる。
アリスはそんな彼女と友達になれてよかったと心から思った。




