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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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607回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 402: 想いに応える覚悟とともに

 目を覚ますと僕は自室のベッドにいた。

 隣にはブルーノが寝ている。


 彼の体温を感じ、呼吸して胸を上下させているのを見て僕は顔をほころばせる。

 ここへはみんなが連れてきてくれたんだろうか、ブルーノを連れてくるのは色んな意味で難しかったと思うのだけど。

 僕はみんなに対して感謝の気持ちが湧き、胸が温かくなった。


「おっ、起きてるじゃん雄馬。心配したんだぜ?」


 そう言って部屋に入ってきたのは全身アザと噛み傷だらけの陽介だった。


「陽介の方が重傷じゃん!どうしたのそれ」


「ベイルの奴を押しとどめとくのが大変でさぁ、最終的にロメロがあいつを絞め落として気絶させる有様で、そりゃもう」


「うちのベイルがすみません……、それで試合は?」


「俺たちの勝ちって事になったぜ。今回の試合の結果シード枠に入って、一週間後に決勝戦だってさ」


 ずいぶん決勝までの期間が短いように思える、女王が計画を前倒しにしているのだろうか。

 焦りなのか余裕なのか、少なくとも今の僕らには都合がいい。


「それよりお前いつのまにアバター化できるようになったんだよ」


「自由に使えるわけじゃないんだ、左腕が疼いた時だけ使えるというか」


「邪気眼みたいじゃん……それはそうとあの時使ったの魔鏡スキルだろ?地獄祭で生き延びた三人だけがゲットした神祇の一つの」


「たまたま手に入れてたのがこっちでも反映されてたみたいだね」


「あのイベント生き残れるやついたんだ……。いやまぁ三人は生き残る仕様だけど、宝くじの一等当たった人みたいに現実味なかったわ」


 前の世界にいる時、僕には表で堂々と生きることが難しかった。

 その為ダイブ型VRMMOティタノマキアの世界が実生活の場のようなところがあり、必然的に結構な廃人プレイをしていた。


 そんななかティタノマキアでは「ドーマルディ贄祭」という全プレイヤーPKイベントという狂ったイベントがあった。


 全プレイヤーが問答無用でPKモードにされ、殺した時や死亡時のペナルティが無い代わりに、イベント期間中リスポーン禁止。

 期間中に最後の三人になったら期間限定の特殊スキルを提供するというものだ。


 歴史的クソイベとか地獄祭とも呼ばれ、プレイヤー間では悪名高いイベントである。

 その為一度しか行われていない。


 イベント開催期間も一ヶ月と長く、そんなにプレイ出来ないのは困ると生き延びる事に全力を注いだ結果、最後の三人まで生き延びてしまった。


 その時に現れたイベントボス「犠牲王ドーマルディ」とのバトルに三人で勝利し、報酬として僕らは神祇と呼ばれる特殊スキルセットが与えられたのだった。


 神祇とは神剣、魔鏡、霊玉、の三つの種類があり、僕の魔鏡は防御を主体としたスキル、神剣は攻撃、霊玉はバフやデバフに回復などのスキルで構成されている。


 与えられたスキルセットはそれぞれのスキルが使い捨てで勝手は良くないが、チートクラスの性能がある。

 そのためブルーノのような災害級の格上相手と戦う場合、最後の切り札として使うことが可能だ。


「ベイルは今どうしてるの?」


「あーあいつは暴れまわるんでふん縛られてる」

 そう言って陽介は苦笑いした。


「連れてこようか?」


「うんお願い」


「任された!」


 陽介が部屋から出ていってしばらくしてから、僕はブルーノに声をかける。


「今なら二人きりだよ」


「気付いてたのか」

 ブルーノは目を開き静かな声で答える。


「陽介と話してる間に呼吸の仕方が変わったからね、起こしてごめん」


「謝るな、お前は何も悪くなんかねぇ」

 ブルーノは沈痛な顔をしながらそう言った。


「戦っている最中ずっと俺を見つめるお前を見ていて気付かされたよ。一度助けると決めたお前は誰にも止められない、だけどそんなお前だから俺達は救われたのかもしれないってな」


「ブルーノ……」


「結局俺は自分のわがままをゆう坊に押し付けようとしてただけだったんだ。無理やり言いなりにしたって悔いは残る、お前を危険に晒してまでやる事じゃない。俺は身勝手で最低な事をしたんだ」


 彼はそんな自分をどう裁いてくれても構わないという顔で僕を見つめた。

 僕から罵詈雑言を浴びせられ、蛇蝎の如く嫌われたとしても、それを全て甘んじて受け入れるという覚悟と諦めの同居した目をしている。


「君は間違ってなんかないよ、僕を大切だと思ってくれてるのは痛い位伝わってきたから」


「でもなゆう坊」


 僕は彼の口に指を当て、彼の不安そうな顔を撫でて抱きしめる。

 腕が回りきらない巨躯に、熱い筋肉で包まれた屈強な身体の頼もしさ。

 そんなブルーノが僕を受け入れてくれる安心感に何度気持ちを救われただろう。


「僕だって同じなんだ、君が支えてくれたからメルクリウスの街でなんとかやっていけた。だから気にしないで、こうして一緒にいられるだけで嬉しいんだ」


「そうか……そうか」

 ブルーノは泣きそうな声で呟き、僕をそっと抱きしめ返すと、優しく撫でてくれる。

 きっと彼に子供がいたらこうするんだろう、それがわかるくらいに暖かく包み込んでくれた。


「なぁゆう坊、一つだけ約束してくれるか」


「うん、なに?」


「どんな理由であったとしても、お前自身で選んだ道を生きてくれ。お前のまっすぐな心が歪んでしまわないように、誰かに利用されて終わるような生き方はしないでくれ」


 彼はうちに秘めた想いを込めるように僕を強く抱きしめる。

 ブルーノ体は怯えるように少し震えていた。


「そうしてくれるなら、俺はゆう坊を見送ることができる」

 彼に今必要なのは勇気なのかも知れない。

 それを与えられるのは僕しかいない。


 返事は一つだけだ、でも胸に誓って言わなければきっと届かないだろう。

 僕は彼に届くように心の奥からの返事を口にする。


「わかった、約束するよ」


 僕の返事を聞いてブルーノは笑ってくれた。

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