606回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 401: 必殺の一撃
「雄馬!」
叫ぶベイルたちの声が会場に響く。
目を開けると僕は穴から離れた場所に着地していた。
たしかにブルーノの剣が直撃したはずなのに無傷だ、なぜ?
手にしていた山刀を見るとCounter ability activateと光る文字で表示されている。
プレイヤースキルが発動しているらしい。
「グレッグが助けてくれたの?」
『お前の為じゃない、死なれちゃ困るんでな』
左腕のグレッグはぶっきらぼうに答えた。
穴の直上で宙に浮かんでいたブルーノが僕の姿を確認し剣を構えてこちらに急接近する。
彼の斬撃をビハインドダークを使い透過し、鎧の隙間を山刀で斬る。
ブルーノの左腕から血が噴き出す。
しかし彼は意に介さず剣を天にかざし、地面に叩き下ろす。
それに呼応するように黒いレーザーのようなものが雨なように降り始めた。
アリーナが穴だらけになって行く、超重力を用いて空気中のチリを無数の弾丸にして降らせているらしい。
プレイヤースキルが発動し、アバター化している僕に直接のダメージはないが、HPはみるみる減っていく。
僕は山刀を構えてブルーノに向かい走り出した。
『どうするつもりだ』
「ゾーンオブリベリオン!」
グレッグの問いに僕はスキル名で答え、彼はそのスキルを発動させる。
自分が今いるエリアの敵の攻撃を完全無効化するスキルがブルーノの大罪魔法を消滅させた。
効果時間は5秒、だけどそれだけあれば十分だ。
僕は走る足が踏み出すタイミングに合わせて足の下に木柱を出して速度をさらに上げ、ブルーノが攻撃体制に入る前に彼の鎧の隙間を目掛けて袈裟斬りを放つ。
ブルーノが体を捻り鎧で斬撃を逸らそうとする、しかし山刀の一撃は彼の重力の鎧を切り裂き、ブルーノの体に届く。
「鎧が斬れた?」
僕は驚きながらもブルーノから距離を離す。
重力の鎧の隙間から血を噴き出すが、彼が鎧を塞ぐと血も止まった。
『衝撃の大罪魔法の力が山刀に乗ってる、あのジジイがなんか仕込んだみたいだな』
火山で出会ったペストマスクのおじいさんの助けがあったらしい。
ブルーノの動きが少し緩慢になった。
出血によって体力が削られたようだ。
「この調子で行けば止められる」
『それはどうかな』
「ウオォオオオォオオッッッ!!」
ブルーノが狂ったように叫び、激しい重力波を発生させ始める。
『ハッハァッ来るぞ、強烈な奴が』
強烈な重力嵐で地面が砕けて上昇していく。
空気が集まりアリーナに巨大な竜巻が起きる。
『この国ごと消し飛ばす気か、相当頭に血が昇ってやがるな』
ブルーノを中心に物体を潰し斬る重力線が四方八方に放射され始めた。
僕はブルーノに向かい脇構えで山刀を握る。
『おいおい、真っ向からやりあうつもりか?』
「必殺の一撃を放つ時、最大の隙ができる」
『イカれてやがる』
文句を言いながらもグレッグは僕が使おうとしているスキルを発動させた。
山刀が鏡の様に変化し怪しい光を宿する。
ブルーノが腕を広げ、何かを押しつぶすように両手を眼前に近づけて行く。
その動きに合わせて乱放射されていた重力線がブルーノの元に収束。
彼の眼前にブラックホールのような黒球が現れ、ブルーノがそれを押し潰した瞬間、巨大な重力波の黒い光線が僕に向かい放出された。
ありとあらゆる物がその光線に向かい落下し、重力崩壊して行く。
僕は光線に向かって走り横薙ぎの一閃を放つ。
「 弑逆ノ廻鏡 」
スキル名を口にすると山刀の斬撃が黒い光線を歪め、山刀に光線が吸収されて行く。
「オォオオォオオ!!」
ブルーノが叫び声と共に突進してきた。
次の一撃が最後だ、負けた方が死ぬ。
僕の攻撃でブルーノが……。
思わず体が硬った。
『馬鹿が』
グレッグが僕の体の制御を奪い体が勝手に動く。
「グレッグ!」
ブルーノの最後の力を込めた大剣による斬り下ろしが迫る。
強烈な重力波を纏ったその斬撃に山刀を袈裟斬りに放ち、刀身に宿していた重力波を一気に開放しブルーノの剣を粉砕した。
ブルーノの胴体ががら空きになる。
グレッグは彼の腹部に容赦なく山刀を突き刺し、抉り込む。
戦慄する僕の意志など無視して、グレッグはブルーノの体を引き裂いた。
「ガッ……ゴボッ……」
大量の吐血と共にブルーノの鎧が消え、彼が膝をつき体から血を噴き出す。
「まだだ……まだ」
ブルーノは腹部を押さえながら、そう言って立ちあがろうとし、白目を剥き地面に崩れ落ちた。
「ブルーノ……」
目の前が真っ暗になり、心臓が早鐘を打つ。
呼吸が苦しくなる。
僕の中の何かが大きく膨らんで爆発しそうだ。
左腕が熱い、もう抑えきれない。
『七獣将がこんな程度で死ぬかよ』
グレッグがそう言って僕は正気に帰る。
『よく見ろ』
そう言われてブルーノに駆け寄り、体を起こす。
たしかに傷が塞がっていた、微かだが呼吸もしている。
「生きてる……」
安堵と共に緊張の糸が切れて、僕はその場で気を失った。




