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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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593回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 390: 闇夜の蛇

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 夜更けのヘルズベル城をジュリアが鼻歌交じに歩いていく。

 彼女が回廊を抜け中庭に向かうと眼前に尖塔が見えた。


「止まれ」


 男の声に制止されジュリアは立ち止まり、声がした物影を見つめる。

 

「この先は皇太子の寝所がある、こんな時間に何の用だ?」

 風が流れ雲が動き、空の月輪に影が照らし出される。

 そこに居たのは将冴だった。


「見学だけどぉ?今どんな顔してるのか気になってぇ」

 ジュリアは甘ったるい声で将冴を挑発するように言った。


「駄目だ、失せろ」


「実力行使で通ってもぉ、いいんだけど?」

 ジュリアは挑発的に笑いながらも鋭い目つきで将冴を射抜く、しかし彼は動じずに杖を出しジュリアに向けた。


「悪くない誘いだ、前からお前に技を使ってみたかった」

 将冴もニヤリと笑う。


「あれれぇ?サンドバッグくぅん自分の状況理解してる?お城の中で君から攻撃なんかしたら立場が危ないのはぁ君の方だけどぉ」


「俺は構わない、派手に爆発させれば城の兵士達にお前の怪しい動きも知れ渡るからな」


「相変わらず可愛げのないおこちゃまねぇ」

 ジュリアは拗ねたように唇を突き出しおどけたポーズをした。

 その様子を見て将冴は杖を下ろす。


「今夜はいつにも増して上機嫌だな」


「わかるぅ?」

 ジュリアはそう言うと将冴に笑顔を見せる。


 将冴は彼女の笑顔が嫌いだ。

 この世の全てを見下しているような表情は、気位の高い彼に不快感しか与えない。


 一番気に入らないのはその事をジュリア自身も理解した上で見せつけている事だ。

 彼女のそういった悪癖は、他者を自分の思い通りに支配したいという願望の現れのように思えた。


「私のベラベッカの力がどんどん強くなっててぇ、奪うのが楽しみで仕方ないのぉ」


 恍惚としながら、自分に酔う様に空を見上げて彼女は言う。


「ねぇ、君には夢ってある?」


「目標を美化するのは嫌いなんだ」

 吐き捨てる様に言う将冴にお構いなしでジュリアは自己陶酔を続け、空に向かって両手を広げる。


「降ってきそうなくらい輝く星空、私はその中でひときわ輝く星でありたい。みんなが私を見て憧れ、嫉妬して、想い焦がれるの。私が視線を送っただけでみんなの心が私でいっぱいになる」


 ジュリアの右目から欲情がこぼれ落ちる様に炎が逆巻き、周囲に無数の小さな銀の剣を形成し、それらがギラギラと輝く。


「私の夢は星になる事なの、子供みたいだけど可愛い願いでしょ?」


「血塗れの手で掴むには似合わない夢だ、殺戮王でも目指した方がよっぽどマシだぞ」


「ンフゥ」

 ジュリアは将冴の返答に心底愉快そうに歪んだ笑みを浮かべ、将冴にキスするほど顔を近づける。


「私君みたいな子大好き、叩き潰して服従させたらとっても楽しそうなんだもの」

 そう言って舌なめずりする彼女は、人というよりも妖艶な蛇の様に見えた。


 将冴の背中にえもしれぬ悪寒が走る、周囲の剣もいつの間にか切っ先を将冴に向けていた。

 将冴は感情を顔に出さないようにしながら、迎撃スキルの発動準備を済ませる。


 将冴が戦闘になるのを覚悟していると、ジュリアは突然何かに気づいたようにハッとして、炎と剣を消し去った。


「嫌ね私ったら、興奮しすぎて濡れてきちゃった」

 彼女はそういって微笑むと城に戻っていった。


「済んだぞ」


「ええ、ありがとうございます」

 将冴が物陰に話しかけると、中からもう一人の男の声がした。

 影の中からピエロのスタンが姿を見せた。


「女王の差金か?」


「ええ、侵入者による誘拐に見せかけ、小王様を人質にフォンターナ派に揺さぶりをかけるつもりだったのでしょう。送り込むなら最強の駒である彼女、対処できるのは貴方だけ、貴方が味方で本当によかった」


 将冴はスタンに胸の奥でよく言うよと呟く。

 将冴の立場を今の形にしたのは他ならぬスタンの根回しだ。

 怪しい道化師ではあるが、味方であるうちは利用してやろうと将冴は考えていた。


「フェルディナンドの守りだけじゃ足りないんじゃないのか」


「と言いますと?」


「俺なら攻められる場所は片っ端から攻める、例えばフォンターナ派の資金源になってる山桐雄馬とか……な」


 将冴は雄馬の名を出した時、彼と陽介の事が心配だと感じた事に戸惑い言葉を濁した。


「お仲間が心配ですか?」

 見透かしたようなスタンの言葉に将冴は「ありえない」と否定した。


「馴れ合いなど、馬鹿馬鹿しい」

 将冴は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、その場を後にした。


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