591回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 388: 暖かな痛み
「ふぬっ!?」
「なんだ、どうした」
背筋に寒気が走り振り返ると、ベイルが物陰からすごい形相で僕らを見ていた。
気づかれたことがわかると、ベイルは肩を怒らせながらこちらに近づき、僕の腕をガッと抱きしめベラを睨む。
「雄馬は俺のだかんな!」
ベイルはそう言ってグルルッと唸ってベラを威嚇する。
「ベラとはそういう関係じゃないってば」
苦笑いしながらそう言うと、ベラが小さな声で「え?」と呟いた。
なんだろう?と思い彼女を見ると、呆然としていたベラはハッと我に帰った。
「あーいやいやいや、二人が仲良過ぎてあっけに取られちまってさ」
彼女はそう言って苦笑いすると頭を掻く。
「雄馬ぁ約束の時間過ぎてる」
ベイルは不貞腐れた顔をして、僕の手を握りながら抗議した。
不安がってたベイルに夕方までには帰るって約束したんだった。
「ごめんねベイル」
お詫びにベイルの頭をカキカキすると、彼はムスッとしながらも気持ちよさそうに目を瞑る。
「今日はこれでお開きにするか、力の使い方もわかってきたし」
「いいの?なんならベイルも加えてトレーニングするのもありだと思うけど」
「雄馬がそう言うならやるぞ」
そう言って褒めて欲しそうな顔をしたベイルの頭を撫でると、彼はニコッとしながら尻尾を激しく振った。
「ありがとな、でも後は一人で練習したいんだ」
そう言って彼女は炎を纏い、シャドーボクシングをしたあと、回し蹴りで空を裂き、その後に続く炎の爆発を起こして見せた。
「おおー」
ベイルが驚いている、この様子ならたしかに一人でもやれそうだ。
「役に立てたならよかった、お休みベラ」
「ああ、おやすみ雄馬、あとわんころも」
「ベイルだ!」
そう言うとベイルはベラにあっかんべーをして、僕とベラは苦笑した。
-----
雄馬とベイル二人が出て行った後、ベラは一人きりのグラウンドが妙に広く冷たいと感じながら佇んでいた。
一人で剣を振り拳を突き蹴りを放ちながら、彼女の脳裏には雄馬の姿が何度もよぎる。
「ハァッ!」
気合を入れて炎を纏い、火炎攻撃を交えた猛烈なラッシュを行い、宙に駆け上がり拳に乗せた炎を放つ。
力加減を誤り纏った炎が消えて、彼女はまた背中から地面に落ちた。
「ッつぅう」
背中の痛みに声が漏れる、だけど今度は一人きり、声をかけてくれる雄馬はいない。
仰向けになりながらベラは胸をおさえた。
「なんだよこれ、チクチクする……」
ベラは初めて感じる胸の痛みに戸惑いながら、黄昏色の空を見上げていた。
-----




