588回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 385: グレッグ
ベイルとお風呂に入り、手でやる水鉄砲で互いに水を掛け合って遊びんだあと、僕らはいつものように同じベッドに寝転んだ。
部屋の明かりを消してベッドに入り、ベイルの寝息を聞きながら目を閉じていると左腕が話しかけてきた。
「あの女をうまく丸め込んだな」
僕は目を開き真っ暗な天井を見上げる。
夢ならこれで覚めるはずだけど、声は続く。
「決勝戦はドゥームブレイドの継承候補者同士の争いになる、商品を手に入れるにはあいつとチームを組むしかないわけだ」
僕は煽るようなその声に無言で返答する。
「反論しないのか?」
「君は僕の一部なんだろ、何を言うかもわかってるんじゃないのか」
ベイルを起こさないように小さな声で呟く。
「なんだよ愛想のない、同じ体にいる者同士仲良くしようぜ」
嫌味を言っておいてよく言うよ。
「君は何者で何が目的なんだ」
「俺はあの爺さんの言った通り、お前の悪性だよ。琥珀のダガーの中の奴がお前から切り離した部分だ。過去のお前自身もここに入ってる」
僕は暗がりの中左腕を掲げて見つめた。
「目的はお前にこの体から出て行ってもらう事だ」
「切り離された僕自身ならそうなるのも当然か」
「お前がいると、過去のお前が体に戻れないんでな」
自分の事のはずなのに他人事みたいに言うのはなぜだろう。
「名前がいるよね、左腕って呼ぶのも何かと不便だし」
「……俺の事はグレッグとでも呼べ」
「それって前の僕の大切な人の名前だ」
「なんだ、不服か?」
答えあぐねていると、グレッグは呆れたように続ける。
「もういなくなった男の名前なんてお前には関係ないだろ」
「ドルフの事もあるし、関係なくなんてないよ」
「……ふん、どう思われようが俺には関係ないがな。さっさと寝ろ、不甲斐ない姿晒すようならまたお前の体を借りるぞ」
「やな奴」
そう呟くが、グレッグの返答はない。
急に静かになって少し寂しくなり、僕は寝転んでベイルの腕を抱きしめる。
グレッグ、得体が知れなくて感じの悪い奴。
でもなぜかどことなく憎めない、彼の声にどこか懐かしさを感じるからだろうか。
目を閉じて眠りに落ちる。その晩僕は立派なツノをつけた大きな犬獣人に抱きしめられる夢を見た。




