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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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579回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 377: 逆巻く炎の先に

 屋根の上を走るストレードさんに並走する。


「何が起きたんですか?」


「わからん。しかしスモーカー氏の領地内だ、早急に解決しなければ彼が責任を追求されてしまう」

 相手がベラだった場合でも手加減してくれるような状況じゃないって事か。

 後から追ってきたベイルが合流した。


「邸の方はどうします?」

 ゴタゴタに乗じて強盗がやって来るかもしれない。

 ベイルに警護をお願いしなきゃならないかも。


「邸のことは陽介に任せた、あいつもエンフォーサーならなんとかできるはずだ」

 たしかに陽介も強くなった、革覆面もいる、だけど暴徒が押し寄せたら流石に危ないかもしれない。

 なるべく早く戻らないと。


 そんなことを考えていると、住宅を焼いていた青い炎が生き物のように蠢き、僕達に襲いかかってきた。


「まるで燃え盛るスライムだな、二手に別れるぞ」


「わかりました!」


 そう言ってストレードさんはフックを使い左側上空に向かって飛び、僕らは右側に向かって走る。

 炎は生き物を追いかける習性があるらしい、僕らを追跡し襲いかかってくる。


 ストレードさんは自身に炎の注意を向けて、住民達の避難路をフックで作りながら街を飛び回っている。

 攻撃を避ければ避けるほどあたりの炎が僕らに向かって集結してくる。


「おいおい雄馬、これちょっと不味くねぇか?」

 ベイルの言う通り火の手に追われて逃げ場が加速度的に減りつつあった。

 ストレードさんみたいな移動方法がない以上、必然とも言える状況だ。


「アミュレット持ってる人が避難してますように!」

 僕は琥珀のダガーを引き抜き、水分を多く含むイチョウの木を壁にすることで炎の導線を作り、逃げ道を作って炎から抜け出す。


「雄馬!」

 ストレードさんの呼ぶ声にそちらを見ると、彼は建物の上の貯水タンクを指差した。

 僕はうなづき、周囲のタンクの場所を確認する。


 ストレードさんの進行方向に一つ、後方上部と左手側に一つずつ。合計三つある。


「ベイル貯水タンクだ、お願い!」


「あいよっ!」

 ベイルは両手を組んでしゃがみ、僕がベイルの手に足をかけ跳ぶと、彼はそれに合わせて僕を上に放り投げた。


「よっと」

 僕は建物の出っ張りに指を掛け、足場に飛び乗るとベイルにサムズアップして見せる。

 ベイルも僕にサムズアップを返すと、貯水タンクに向かって走っていく。


 僕は琥珀のダガーを構え、この辺りの建物の構造を利用しながら木を使い、炎の上昇気流を閉じ込め、炎を一箇所に吸い上げ人工的に火災旋風状態を作ると、それに目掛けて貯水タンクを倒す。


 ストレードさんとベイルもそれに続き、三箇所から大量の水が浴びせられた炎の勢いは治ったように見えた。


 しかし中心部分の炎溜まりは煌々と燃えさかり、濡れた周囲を乾かしてまた火の手を増していく。

 炎だけを狙っててもらちがあかないようだ。


 僕は琥珀のダガーの生命力探知を使い炎の先のベラを感知し、貯水タンクに残っていた水をかぶった。


「何する気だよ」

 戻ってきたベイルは僕の行動を見て嫌な予感がするといった顔をした。


「今から飛び降りるから、ベイルは僕の加速度を上げて」


「は!?」


 ストレードさんは声かけなくてもわかってくれそうだな。


「スリー、ツー、ワン」

 僕は建物のふちに向かって全力疾走。

 「ちょっ待てって!!」と叫びながら引き止めようとするベイルの手が空を切る。


「バンジーッ!!」

 叫びながら景気よく飛び降りる。


「馬鹿野郎ッ!!」

 ストレードさんはそう叫び僕にフックをかけた。


「ふざけんな雄馬ァ!!」

 ベイルもそう叫びながら僕を絶技で加速する。


 僕は超加速状態で炎だまりに突入し、逆巻く蒼炎の向こう側に怒りと憎しみで顔を歪めたベラを見た。

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