572回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 370: 開会式
翌日、闘技場ではたくさんの剣闘士たちがアリーナでごった返していた。
今日は試合はなく、新しい大会の開幕式が行われる。
客席もほぼ満員でざわざわと騒がしい。
「俺たちは大会には出ないけど、なんか緊張する……」
陽介はそう言ってこわばった表情をしている。
今回の大会出場条件はエンフォーサー以上、つまりストレードさんにグローツラング以上の剣闘士達がここに集まってるわけで。
そう考えると緊張するのも仕方ない気がした。
「でもこれでメルクリウスに帰れるな、懐かしの我が家に早く帰りたいぜー」
「なんの話です?」
テムが首を傾げて話を聞きにきた。
「陽介ッ」
僕は陽介の脇腹を肘で軽くつく。
「あっヤベッ」
陽介は慌てた顔で口を塞いだ。
「たしかメルクリウスがなんとか……」
「目玉焼きトーストの話だよな」
ベイルがアシストに入った、ナイス。
「そうそう、目玉焼きトースト食べたいな、懐かしの我が家の味なんだよなーって」
「うんうん、あははは」
僕も陽介も完全に棒読み、ベイルも呆れ顔をしている。
テムは納得したようで目の前で手をたたきうなづいて見せた。
「なるほど、それなら良い店があるので帰りにみんなでいきませんか?」
「おっいいねー、よろしく頼むよテム君!ハッハッハー」
わざとらしい演技をしながら陽介はテムの肩をバンバンと叩く。
そうこうしているとドラの音が鳴り響き、ファンファーレが奏でられ剣闘士達は貴賓室の方を見上げた。
奥の方から女王エロイーズが数名のお供を連れて現れる。
「あれが女王……」
華美な衣装を幾重にも纏ってダルマのような体型になっている。
本人はその状態が気に入っているようで誇らしげにポーズを決めている。
「女王陛下に礼!」
アリーナを武器をもって取り囲んだ兵士たちが一斉にそう叫ぶと、剣闘士達は女王に頭を下げた。
一人だけ立ったまま貴賓室を眺める人がいる。
「ベラ!」
僕はそれがベラだとわかると思わず声をかけていた。
しかし彼女には聞こえていないようだ、その眼差しは怒りに燃えてギラギラとしていた。
剣闘士達が上半身を起こし、ベラの姿はまた見えなくなってしまった。
彼女の見つめていた場所、女王の隣にはジュリアがいた。
彼女は不敵な笑みを浮かべてアリーナを睥睨している。
兵士が数名距離を離して立ち、読み上げを開始する。
「今回の大会を勝ち抜いたものにはクラスブリンガージュリアとの対決の権利、そして……」
女王は右手にしたなにかを天高く掲げる。
見た瞬間僕にはそれがなにかわかった。
「優勝者には魔王四秘宝が一つ、紅玉の腕輪を与えるものとする」




