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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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570回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 368: 屍山血河

 こちらでは時間が流れていなかったらしく、みんななにも気づかず進んでいく。


 出口から差し込む光が見え、近づくにつれて周囲の様子が見え始める。

 そこにはやはりもうあのお爺さんの姿はなかった。


 僕の腕を抱きしめるベイルの手に触れる。


 こんなに近くにいるのに、僕はベイルを信じきれてなかったのかもしれない。

 みんな、僕を捨ててしまうんじゃないか。心のどこかでその不安があったのは確かなんだ。

 そしてそれは信じてくれるみんなに対しての裏切りでもあることも。


 ベイルが僕の顔を見て顔に皺を寄せ、僕の頭を乱暴にワシワシと撫で回した。


「わわっなに、どうしたのベイル」


「また余計なこと考えて悩んでるだろ」

 そう言うとベイルはまた僕の頭をワシワシ撫で回す。


「俺がそばにいる時にそういう顔するの禁止!」


「わかった、わかったからやめて」


「なになに?また雄馬が一人でお悩みモードですか?」

 陽介が参戦した。


「みずくせえだろ、俺らがいるのにすぐ一人で抱えようとすんだもんなぁ」

 ベイルが不貞腐れた顔で僕のお尻を尻尾で叩く。


「不安な気持ちはわかりますよ、だけど俺もなるべく兄貴の役に立てるように頑張ります」

 テムもおずおずと口にした。


「フッ……」


「ロメロが笑った!?」


「意外と良いチームだと思ってな」


「貶し半分に聞こえるんだが?」

 陽介が釈然としない顔で言う。


 ベイルが僕の顔を見て満足そうな顔で微笑む。

「やっぱ雄馬は笑ってた方がいい」

 知らないうちに笑顔になっていたようだ。


「そういやあのじいさんはどこ行ったんだ?」


「おじいさんなら用があるって戻っていったよ」


「マジか、一人で大丈夫かな」


「大丈夫だよ、ものすごく強かったし」


 みんなが僕をジトっとした目で見た。

 舌の根も乾かぬうちにと言われる前に白状しておくか、心配かけたくはないけどもう終わった話だしね。


「あのおじいさんこの山の番人だったみたいで、みんなが気づかない間に試練受けてました……」


「試練失格したらみんな死んでたやつ?」


「うん」


「マジかよーっ!?」


「唐突につれて行かれていきなり始まったからやるしかなくて」


「くっそー、雄馬に降りかかる火の粉は俺が払うって決めてるのにあのジジイめ!」

 ベイルが地団駄を踏む。


「まぁまぁ皆さん、そういうことなら生きて出られるってことですし」

 テムはよほどそれが嬉しかったらしくニコニコで言った。


 ベイルが僕をぎゅっと抱きしめた。


「離れ離れになんねーように頂上出るまでこのまま歩くかんな!」


「歩きにくいよ」


「俺が抱え上げるからいい」


 僕は持ち上げられ、お姫様抱っこされてるような形になった。

 僕は彼の首元に顔を埋め、その気持ちを全身で感じ取る。


「こうしてくっついてると暑くない?」


「全然、平気だ!」


 毛皮で暑くて汗だくなのに強がってる彼が可愛くて笑ってしまった。

 胸の奥がじんわりと暖かくなる、こんな時に変だとは思うけど、なんだか幸せな気持ちだ。

 だから失うのが怖くなる、心から信じられたらそんな事なくなるんだろうか。


 僕がベイルを抱きしめ返すと、彼は何も言わずに僕の頬を軽く舐め。

 大丈夫だ。と耳打ちした。

 もしかするとベイルは僕の不安なんてとっくに見抜いてしまっているのかも。

 少し恥ずかしい気持ちになった。


 出口を抜け、まっすぐ山頂に向かう坂を登り、その先にあったものを見て僕らは絶句した。

 火山を流れるマグマの源泉に横たわる一体の首のない巨大な竜の亡骸。

 竜の首から止めどなく流れる血がすじを描き、マグマに変化して岩を溶かし赤熱しながら流れ落ちていく。


「屍竜キャリバン……」

 ロメロがポツリと呟く。

 これが女王が欲しがっている物、一体彼女は竜の亡骸でなにをしようというんだろう。

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