560回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 358: 悪魔の使い
ネットの様な物をいくつか突き抜けて底に着地すると、そこには壁や地面を流れるマグマによって赤く照らされた溶岩窟の光景があった。
「みんな無事?」
「痛てて、背中打ったけど何とか」
陽介が答える。
「うへぇ蜘蛛の巣まみれだ、ぺっぺっ」
ベイルは自分の毛皮に大量に絡まった蜘蛛の巣に苦戦している。
蜘蛛の巣をモップで掃除すると収拾がつかなくなるあれみたいな事になってる。
「取るの手伝うよ」
「すまねぇなぁ」
ベイルは申し訳なさそうな顔をしながらも、嬉しそうにゆったり尻尾を振っている。
僕はポーチからベイル用に用意していたブラシを取り出し、彼の毛皮をとかしながら天井を見る。
大きめな沢山の蜘蛛が飛び回りあっという間に巣を張り直している。
どうやらあの蜘蛛の巣で助かったらしい。
「テムはどこだろ」
「あいつならあそこだ」
ベイルが指差した先にテムはいた。
こちらに背を向け、地面にへたり込んでいる。
「怪我したのかな、ベイルあとお願いして良い?」
「おう」
ベイルはしぶしぶ感のある表情で僕からブラシを受け取り自身の毛皮をとかしはじめた。
「テム、大丈夫?」
僕はテムのそばに行くと声をかけた。
彼は恐怖に目を見開き、眼前を指差して「あ……アイアイ……」と口にした。
彼の指差す先を見ると、暗がりの中にたしかに人影が見える。
尻尾と耳があり、獣人のようだ。
「他の参加者だ」
「なぁ雄馬声かけてみようぜ」
陽介がなにやらウキウキした様子で話しかけてきた。
「アイアイって童謡で有名なアレだろ?可愛いんじゃないか?」
僕はこの間戦ったクワッカワラビー獣人のサイコのことを思い浮かべ生唾を飲んだ。
「……そうだね、すごく可愛いかも……!」
僕の返答を聞くや陽介はアイアイ〜と口ずさみながら歩き出した。
「あっ待ってよ陽介」
少し軽率な気がしつつも、ウキウキな陽介につられて僕もアイアイ〜と口ずさみ人影に近づく。
「尻尾長いね〜」
「お猿さんなんだ〜」
僕らに気づいたのか人影はこちらに振り向き、近くに吹き出したマグマの光がその姿をあらわにした。
飛び出したような眼球、毛皮はまばらに禿げ上がり、血管の浮き出た浅黒い皮膚に包まれたモンスター、その形相は邪悪で、この世のものとは思えない悪魔の様な何かが僕らを凝視していた。
「ア、アッ……アイアイーッ!?」
陽介が絶句して口をぱくぱくしている。
振り向いたそれはこちらを嘲笑う様な口で「ゲッゲッゲッ」と笑いながら、僕達二人をやせ細った手の中指で指差した。
それはさながら呪いをかけるような動きだった。
「なんか不吉なことしてる!死の宣告!?俺死んじゃうの!?」
生まれたての子鹿の様に震えながら涙目になる陽介。
「おちちゅいてようちゅけ!お、おおおちつちつ」
僕も動揺して舌が回らない。
「おい雄馬!!」
ベイルの叫びに振り返ると、天井の穴から降りてきたラプトル達が僕達の首元を狙い飛びかかってきた。




