554回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 352: 不器用な優しさ
「これ美味いぜ」
ベラは食べていたトリッパ、牛の胃袋を煮込んだ料理をフォークに刺して僕に差し出した。
彼女の顔を見て自分の顔に指をさすと、ベラは「いいから口開けろよ」と言った。
口を開き、彼女が差し出した料理を食べる。
内臓のコリコリとした食感、トマトと牛の胃袋の組み合わせが意外と美味しい。
「どうだ」
「美味しいっ!」
「だろ?」
ベラはニコニコしながら僕をじっと見つめている。
「そんなに見られてると食べにくいよ」
「アンドレにもこういう事してやったらお前みたいな反応したのかなって思ってさ」
そう言うとベラは他の客の綺麗な格好見てバツが悪そうに頭を掻く。
「あいつが帰ってきた時に誘ってやろうと思って、こういう店も見つけておいたんだ。でも私はガサツだからどの店でも浮いちまうな」
「ベラはベラだよ、それに笑ってる時の君すごく可愛い、ドキドキしちゃった」
「まじで?」
ベラは僕の言葉に顔を真っ赤にした。
「可愛いなんて言われたの初めてだ、……むず痒くなっちまう」
「ベラは美人だし、可愛いよ」
彼女がその気になればモデルみたいな仕事だって出来そうなくらい、彼女の顔もボディラインも整っている。
僕は素直な感想を口にした。
「やめろってぇ」
ベラは顔を隠して僕に手を振り恥ずかしがった。
そんな彼女を見て思わず笑ってしまった。
「あー、お前からかってるな?」
ベラはムスッとする、そんな顔も可愛い。
こうして普通に交流する分にはベラは素直で良い子だ。
アンドレが彼女を大切に思っていた気持ちが少し理解できた気がする。
食事が終わり、食後のコーヒーを飲む。
「やっぱ一人で食うより二人のがうまいな」
「確かにこんな店でぼっち飯はキツいね」
苦笑いする僕にベラは「まーな」とにこやかに答え、ポケットを弄り顔を青くした。
おや、この展開。
「もしかして?」
「……財布がない」
「わお、じゃあ今度は僕が奢るよ」
「いやそれじゃあんまりにもだせえよ!ちょっと待っててくれ、多分さっきの服屋だ、行ってくる!」
止める間なくベラは走り去っていってしまった。
「意外とおっちょこちょいなんだな」
苦笑しながらコーヒーを口にしていると。
「相席、いいかしら?」
輝くようなブロンドの髪、海よりも透き通る蒼い瞳の女の人が僕に話しかけてきた。




