544回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 342: 魔女の遺物
翌日僕は屋敷の中庭で地面に枝で線を引いていた。
「本当にこんなんで届くのか?」
ベイルが疑わしそうな顔をして言う。
「システィーナさんの話だとこれでいいはずだよ」
僕は手紙を取り出し、地面に引いた線にそれをあてる。
すると線に当てた部分からあっという間に手紙が朽ち果て、ボロボロに崩れて消えてしまった。
「おお、ちょっと怖い」
「呪いじみてるな……」
穴ポストとはこの地域に暮らしていた魔女が昔施した魔法の事で、こうする事で対象の頭の中に直接伝えたい言葉が届くらしい。
女王エロイーズが暮らす城はもともと魔女シコラクスの居城だったらしく、ヘルズベルには魔女の施した魔法がいくつか残っている。
それらの使用は禁じられているものの、便利なので市民はみんなこっそり使っているとの事だった。
先日のベラとの約束の件スモーカーさんは二つ返事で許可をくれたが、今日の訓練の時にストレードさんに伝えると彼は顔を顰めて難色を示した。
彼は不満そうに「自分の面倒も見れない奴が他人の面倒なんて見てる場合か?」とぶつぶつ言いつつもスモーカーさんの許可という事で渋々許してくれた。
これに関しては相手が名うてのベラベッカである事も関係ありそうではある。
「大体お前は自覚が足りんのだ、あのお方に期待されるというのがどういうことか……」
ストレードさんは言いかけ、何かに気づいたように話を止める。
「どういう事なんです?」
「いや、そうだな」
少し考えを巡らせるように天井を見た後そう言うと、彼はニヤリと笑みを浮かべた。
「あっいじわるな笑い方してる」
陽介がいち早く異変に気づいた。
「体験して覚えるのが一番だ、それもまた一興」
「やだー言い出したなら最後まで言ってくださいよ!?」
僕が不安がる様子を見てストレードさんは愉快そうだ、ちくしょう。
「まぁせいぜい明日の試合に備えてもう1人メンバーを見つける事だな」
「あれ?ストレードさんが一緒に出てくれるんじゃ?」
「俺のクラスはエンフォーサーだぞ、ファイターの試合に出場するのは禁止だ。それに前にも言ったがお前らは信用ならん、自分達でメンバーは集めろ」
明日の試合は四人まで出場可能と連絡を受けてる。
別に三人でも出ることはできるけど、この様子じゃ四人揃えないと大変な事になりそうだ。
「おいおい雄馬ちょっとまずいんじゃないのか?」
陽介が不安げに僕に話しかけてきた。
「明日までに……」
呟きながらちらりと革覆面の剣闘士を見ると、彼は僕を見て首を傾げた。
「あいつもバスターだからクラス違いで無理だぞ、それにスモーカー氏以外意思の疎通ができん、私もいまだに名前も知らん」
「そんなに話通じないんだ……」
彼は巨大な剣を両手に握り構えて見せる、目を合わせていると襲いかかってきそうだったので僕らは目を背けた。
「試合前日だから今日はこれくらいにして大通りの酒場にでも行ってこい、あそこは剣闘士の溜まり場だ、粘れば一人くらい見つかるだろ」
「ありがとうございますストレードさん」
「礼はいらん、私に迷惑をかけなければそれでいい」
着替えをしているとベイルが「あの教官もうすこし愛想があってもいいのによー」と愚痴る。
「ああみえて彼なりの気遣いだと思うよ」
「ポジティブだよな雄馬は」
「その肝の大きさわけてくれよ」
陽介はとほほと言った。
僕らはその後ストレードさんから聞いた通り大通りに向かい、そこの酒場を見つけて中に入った。




