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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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543回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 341: 自由への道

 届いた飲み物を飲みながら、ベラベッカは僕らに昔の話を聞かせてくれた。


 棄民闘技場で僕にブローチを託した男の名はアンドレといい、捨て子だった彼はベラベッカの父であるチャンピオンアモンに保護され、彼の下で剣闘士としての修行を積んでいた。


 アンドレとベラベッカはその頃からの昔馴染みで、ガサツな彼女を扱うのが上手く、一番の友達だったそうだ。


 半年ほど前にアンドレに怪我をさせ、ベラベッカを人質にしてアモンを殺したのはジュリアという剣闘士の女。

 その事件が元で足の腱を痛めたアンドレは価値を失い棄民にされ、都市の外へ放逐されてしまった。


 身寄りをなくしたベラベッカは自ら奴隷となり、剣闘士になることを選んだ。


「親父と付き合いの深かった人が雇ってくれるって話もあったんだけど、メイドなんて私のガラじゃないし。それに私さえ弱くなければあんな事にはなってなかったからさ」


 自責の念で剣闘士になるなんて律儀な子だ。


「半年前まで普通の女の子として暮らしてたのに、もうこの間の試合みたいな動きができるなんて凄いね」


「ラングがみっちり稽古つけてくれてるからそこそこな。だけど最近は試合も稽古も手加減されちまって頭打ちなんだ」


 ベラベッカみたいな戦い方をする子に教えるのは難しそうだし、実力が拮抗してきたなら無理もない話だ。


「だからさ、お前に私の稽古相手になって欲しいんだ」


「え?僕?」


「お前は私をあっさり倒せるくらい強い、お前に教えて貰えば私はもっと強くなれる!」


 スモーカーさんに相談の上なら引き受けても良いかもしれない。

 だけど僕の脳裏にはグローツラングや剣闘士達のことが浮かんでいた。

 復讐のために戦い続けたら彼女は近いうちに死んでしまう、彼女の無鉄砲な戦いを経験した僕もそう思う。


「純粋に強くなりたいってだけなら協力できるけど……」


「お前もラングみたいなこと言うつもりか?」


 ベラベッカは少しうんざりしたような顔をした。

 耳にタコができるくらい言い聞かされてるんだろう、グローツラングさんも大変だ。


「言っとくけど私は魔剣の噂くらい知ってる、私が挑むのがアイツの狙いっていうのも理解してるぜ」


「それじゃどうして?」


「私は親父と親友を奪われた、誰かに諦めろと言われてはいそうですかなんて納得できるかよ」


 気持ちはわからなくない。

 毒のように込み上げるやるせなさや怒りや憎しみを飲み込み耐え続ける理不尽な生活。

 それが一生付き纏うなんて、誰だって嫌だろう。


「私は誰かの思い通りに生きるのは嫌なんだ。自由になるにはアイツに挑んで仇を討つしかない」


「その為に剣闘士になったんだね」


 彼女の体に刻まれたいくつもの傷は一生消える物ではない。

 メイドとして生きれば優しい誰かと幸せになる道だってあったかもしれない。

 彼女は復讐のために不幸になっている、それは誰の目にも明らかだ。


「私は今の生き方に不満はないぜ、救いは無いかもしれないけどさ」


 朗らかに笑ってみせるその顔がどこか辛さを隠してるように見えた。


「そこまで考えてるなら止められないね」


「おい、いいのかよ」

 なれないコーヒーに苦戦してちびちび舐めながら話を聞いていたベイルが言った。


「自分のやることに責任と覚悟を持ってるなら僕から言える事はないよ。戦い方を改善して生存率を上げる、そういう理由でなら訓練に付き合うけど、それでもいい?」


「ああ、助かる」


「それじゃスモーカーさんに相談するか」


 そう言いながらポケットを弄り、僕はさあっと血の気がひいた。


「どうしたんだ、青い顔して」


「財布忘れた!」


「マジか!?俺も財布持ってきてねぇぞ?」


 ベラベッカは僕らのやり取りを見て呆れた顔をして笑う。


「奢るよ、今日は迷惑かけちまったしな」


「かたじけない……」


「意外とぬけてんだな、それくらいのが付き合いやすくていいけどさ」


 支払いが終わり店の外に出ると、ベラベッカはふと思い出したように僕らの方を見た。


「そうだ、帰る前に先輩として一つ教えてやるよ。ヘルズベル剣闘士心得、まだ聞いてないだろ?」


「うん」


「『派手に死ね、華々しく殺せ、けして死を無駄にするな』だ。闘技場にルールはないが、みんなこれだけは守ってる」


「死ぬのが大前提みたいな心得なんだ……」


「注目浴びて華やかに見えるけど剣闘士はこの国の最底辺、殺し殺されをプライドにしてんのさ。こういう世界だしあんた剣闘士向いてないぜ、良い人そうだからな」


「こっちのセリフだよベラベッカ」


「言うじゃないか。ベラでいいぜ、私もお前の事雄馬って呼ぶからさ」


「うん、よろしくねベラ」


「スモーカーってのと話ついたら穴ポストで教えてくれよな、それじゃ!」


「穴ポスト?」


「行っちまったな、マイペースなねぇちゃんだ」


 穴ポストについては後でシスティーナさんに聞いてみよう。

 僕とベイルは邸に帰ることにした。

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