534回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 332: 剣闘士と階級
「さっきの話からするとテムは剣闘士なの?」
「はい、そうですよ」
ニコニコと答えるテム。
丸っこいフォルムに小さな体、剣闘士というよりマスコットみたいだ。
「でも一般階級の市民が剣闘士やるのは、あまりいい感情を持たれないんですよね」
テムはしょんぼりした。
賭けがどうのという話をしていたし、プロの中にアマチュアが混ざるのを忌避する人は少なくないだろう。
「なんで剣闘士になろうと思ったの?一般階級ってことは他にやれる仕事もあるんでしょう?」
「俺憧れてるんです、ヘルズベル剣闘史最強のチャンピオン『アモン』に!」
テムは両手を構えファイティングポーズをとり、目をキラキラさせてふんすと鼻息を吹いた。
テムには悪いのだけど、逐一行動が可愛い。
「どんな剣闘士だったの?」
「魔剣『ドゥームブレイド』から全身から無双の力を与える黒い炎を放ち、無数の幻影の剣を操って敵を葬る、まさに絶対無敵のチャンピオンだったのです!!」
小さな子供が考えた大げさに脚色された話みたいで僕は苦笑いした。
ミサの話によればそこまでの力があるオブジェクトを使うと、その時の混沌侵蝕がアミュレットに中和されてしまうだろうし。
「僕は軍に入りたくて剣闘士になったんだけど、具体的にどうすると良いのか知ってる?」
「ええ、それなら階級の話からですね!」
テムの話では剣闘士の階級クラスの仕組みは、以下の通り。
新人は一律百位からスタート、そこから上位に上がって行くピラミッド方式。
下級は十把一絡げに同じ順位として扱われるが、上位30位から個別順位になる。
下層階級「ファイター」
51位までの一般的剣闘士。
中層階級「バスター」
50位から31位まで、ファイターを蹴散らせる実力者達。
上層階級「エンフォーサー」
30位から11位までのチーム戦における試合の行く末を決める戦力。
一般的にここまでが常人の到達できる限界と言われていて、ここまで来れば軍に入れる。
「ブリンガー」
10位から2位までの闘技場の歴史に存在が記録される剣闘士。
「アノマリー」
英雄級、人知の及ばぬ存在。
歴代チャンピオンがこれにあたる。
先代のチャンピオンを殺し、魔剣ドゥームブレイドを手にして人外の力を手にする者。
この中でブリンガーからスターのような扱いをされ始めるため、国からの庇護が手厚くなるらしい。
現在チャンピオンは不在なため、アノマリーは空席になっている。
ちなみに闘技場による剣闘はヘルズベルが地上で建国した時から存在するらしく、その発足理由はドゥームブレイドにあるそうなのだが、詳細は誰も知らないとの事だった。
「なるほどなぁ、ひとまず僕はエンフォーサーを目指せばいいんだね。ありがとうテム」
「お安い御用です、というわけで着きました。ここが闘技場の入り口になります」
「すごい人混みだね、いつもこうなの?」
「今日は今行われているシリーズの最終戦ですから、それに剣姫が戦うんですよ!見逃せません!見ていきませんか兄貴!!絶対楽しめますよ!!」
テムは興奮気味に少し早口で話した。
「ごめんねテム、もう夕方だし遅くなるとみんなが心配するかもしれないから……」
「でもでもあの剣姫ベラベッカですよ!?亡くなったチャンピオンアモンの娘で、今注目が集まってる若手剣闘士なんです!剣闘士としてやっていくなら見た方がいいですよ!!」
「ベラベッカって、もしかしてあの」
ブローチを渡す相手と同じ名前だ、システィーナさんも剣闘士にいるとは言っていたけど。
「ご存じでしたか兄貴!人気ですもんね!今から行けばギリギリ席取れますよ、お任せください兄貴!」
「あっちょっ」
テムは有無を言わさず僕を後ろから押して闘技場へと歩かせる。
意外と強引な子だなぁ。
でも正直気になるし、僕は彼に付き合って試合を見にいくことにした。




