54回目 ソードオフ
近未来、場所は日本、そこには今は機能を失った都市の残骸と、
その隙間をぬってまるで何かから隠れるように、
まるで人間を恐れて生きる虫のようになった人々の群れがあった。
なにに恐れを抱いてるかって、たぶん彼らが恐れているのはプライドなんだ。
もうその国に未来はない、
それはもうみんなわかってることだった。
だからせめて他人に自分のプライドを侵害されないよう、
無用な干渉を受けないようにしてみんな生きている。
政府っていう言葉がただの人命管理業者としての意味合いしか持たなくなってどれくらいたったんだろう。
俺が物心ついたころにはもう何かと戦うための存在ではなくなっていたのは確かだった。
管理されるただ生命だけを維持し、
自国にいながら難民のような生活を余儀なくされる人々の中に俺は生まれた。
別に世界が滅亡したわけじゃない、この国が衰退しただけだ。
だから俺たちは別の道を模索した。
戦うための手段、それは掌の中にあった。
一度全世界でAIによる政治運用が試行されていた時期に開通されたある特殊なネットワークインフラ、
計画自体は御偉方達の大人の事情とやらで凍結されたが、
断片的に機能は残していた。
ネットワークに生息する情報技術者達はその残骸を使い、
ありとあらゆる手段を使ってあるシステムを構築した。
ネットワーク上、昔でいうところのSNSのような仕組みをベースにした政府機関システム「ディースリング」。
行政機関や警察組織の情報をそこからクラッキングして操作することで、
現実世界では政治家たちが足踏みだけをしている状況を強制的に改変しはじめたのだ。
その存在が認識された当初は政府も対策を打とうとしたものの、
どちらにせよ枯れ果ててしまっている国力でできる事などたかがしれていて早々に匙を投げ、
事実的な国家運営はディースリングと、それに参加しているハッカー達が行う状況が確立されていった。
ディースリングのメンバーになる方法は二つ、メンバーによる後見を受けながらの参加、
そしてもう一つは実力行使で他のメンバーをハッキングにより納得させて参加するか。
そして最後に彼らにしかできない最も重要な仕事があった。
港に巨大な貨物船がいくつもコンテナを乗せて荷物を運んでくる。
それらは金で買ったものではない、
どちらかというと強奪に近い形でここに運んでこざるを得なくした他国の物資だ。
常識倫理観法律規則、その全てが意味をなくした時代。
他国に対するサイバー戦争、その最前線で戦う兵士たらんこと。
それがディースリングメンバーの必須項目、
お荷物は即座に始末され、実績はそのまま権力に反映される。
錆と埃にまみれた滅びた国の中で、俺たちはそれでも未来が欲しいと願っていた。




