533回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 331: カモノハシのテム
木箱が崩れる音がして建物の隙間の通路を見ると、その先で小柄なカモノハシ獣人が三人のイタチ獣人に襲われていた。
「揉め事はどこでもあるんだなぁ」
やれやれと呟きながら僕は通路に入る。
イタチ獣人の話し声が聞こえてきた。
「お前みたいな雑魚が剣闘士なんてやってんじゃねえよ!」
「お前の入ったチームに金を賭けてたせいで大損だ、どうしてくれんだよ、あぁん?」
イタチ獣人はカモノハシ獣人の襟を掴み体を持ち上げ壁に押し付けて、その状態で顔を殴ろうと右手を後ろに下げた。
「剣闘士辞めないなら、試合に出れなくしてやんよ」
下卑た笑いを浮かべて彼は腰に溜めを作った。
「それっファニーボーン!」
僕はイタチ獣人の右肘内側をつま先で小突いた。
「うぎゃあ!!痺れぅーッ!!?」
イタチ獣人Aはカモノハシ獣人を掴んでいた手を離し、肘を抑えてうずくまった。
「なんだてめぇは!」
「通りすがりの正義の味方、なんてね」
「舐めてんじゃねえぞカスが!」
イタチ獣人BとCはナイフを抜いた、素手で両手に荷物抱えた相手に絵に描いたような外道ぶりだ。
「はいこれ持ってて」
僕はあわわと怯えていたカモノハシ獣人に荷物を押し付ける。
「えっ?えっ?」
「よーし張り切っていこうッ!」
僕は両手の指を鳴らし、わきわきと動かす。
イタチ獣人二人が左右から同時に飛び掛かってきた、間合いまで引き付け、一気に仕留める!
「喰らえ!五指触手!!」
「なっなにぃーっ!?無数の触手の幻影が俺の仲間達を絡め取って全身を揉みほぐし駄目にしていくぅうう!!?」
イタチ獣人Aはなぜか丁寧に解説してくれた、グッジョブ。
僕の指技で上空に吹き飛んだイタチ獣人BCが落下し、地面で身悶えした。
「あっふぅん」
「はっはひっ……はひっ」
イタチ獣人BCは地面を舐めるように舌を出し、涎を垂らしてうっとりとした顔で体を弛緩させる。
「ひっヒィイイ!!」
イタチ獣人Aは震え上がり腰を抜かしている。
「でえい!」
僕は片手で五指触手をイタチ獣人Aに放ち、瞬時に骨抜きにした。
「も……らめぇ……」
イタチ獣人Aも全身をビクンビクンとさせ、蕩けた顔で虚空を見上げている。
ベイルとドルフにやっていたらだんだんコツが掴めてきたので、一度別の獣人にも試してみたかったんだよね。
「怪我はない?」
僕がカモノハシ獣人を見ると、彼は泣きそうな顔で足をガクガクと振るわせ僕を見つめていた。
「ヒィッ見逃してください、お願いします」
カモノハシ獣人は震える声でそう言って荷物を差し出してきた。
僕は荷物を受け取ると、彼に笑いかける。
「君にはやらないから安心して。言ったでしょ、正義の味方だって」
カモノハシ獣人は状況が飲み込めてきたようで、だんだん明るい表情になり僕に抱きついてきた。
「ありがとうッ、ありがとうございますゥーっ!」
「無事なようでよかったよ、それじゃ僕はこれで」
「お、お待ちを!何かお礼をさせてください!」
「お礼を期待したわけじゃないから、気にしないで」
カモノハシ獣人は僕の言葉に勢いよく首を横に振り、熱い視線を僕に投げかけた。
「この都市に最近みえた方ですよね?剣闘士志望、そうでしょう?」
「よくわかったね」
「見かけたことのない方ですから!だとすれば壁の外から来た実力派の剣闘士に違いないとお見受けしました兄貴!」
「あ、兄貴?」
「兄貴と呼ばせてください!俺兄貴みたいに強い男になりたいんです」
参ったな、まさか人助けをしてこんな展開になるとは。
みんなの呆れ顔が目に浮かぶようだ。
「俺のことはテムとお呼びください兄貴!」
「あの、まだ承諾してない……」
「よろしくお願いします!兄貴!!」
「あ、はい……」
とほほ、仕方ない少しだけ付き合うか身から出た錆だ。
僕はテムの案内でひとまず闘技場に向かうことになった。




