527回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 325: 闘王国ヘルズベル(8)
バルコニーに出ると夜風が心地よく吹いていた。
一階の庭の花畑が一望でき、花々や彫刻が淡く光る石で照らされ、とても雰囲気のある場所だ。
お茶ができる机と椅子もある、デートスポットに紹介されたら人気が出そうだ。
僕に気づいたミサがこちらを見た。
彼女は目隠しを外していて、瞳の色が青く透き通りとても綺麗だ。
「こんばんはおにいさん」
「こんばんはミサちゃん、目隠ししてないから驚いちゃった」
「夜の間は外してても平気だから、目隠しを外して外の風に当たりたくなるの。ベイルさんの様子はどう?」
「元気だよ」
「それはよかった」
「すごく良い雰囲気の場所だね、ロマンチックっていうか」
「おとー様とおかー様のお気に入りの場所なんだ。毎晩ここでお話しするのが二人の日課だったんだって」
そう言うとミサはテーブルに触れ、向かい合う二つの椅子を見て目を細めた。
「おかー様は自分が罪を犯した思っていたの、だからその償いをしなきゃって追い詰められてた」
「罪って?」
「今の女王エロイーズが兄である先王フォンターナを暗殺して国を乗っ取る未来、それが見えていたのにおとー様を守るために黙ってたんだって」
僕は口をつぐんだ。
正しいとも間違っているとも言えない選択肢だ、しかしミサの母はその事に対し罪悪感を抱いた。
犠牲者が出るほどに、その感情が強くなっていったのかもしれない。
未来が見えるのならば、自分の行いでこれから起きる事すら知ってしまう。
ワリス達のような犠牲者のヴィジョンも見ていたのかもしれないのだから。
「おかー様は私を産んだら自分が死んでしまうことも知ってた。だけど私がヘルズベルを守るために必要だからって、自分の命と引き換えに私を産むことを選んだんだ」
たしかにミサの力は稀有なものだ。
彼女がいれば混沌侵蝕に対する対処も迅速に行える。
「おとー様とおかー様にとって私は贖罪のための十字架みたいな物なの、みんな私の気持ちなんてお構いなし、やんなっちゃう」
恐らくスモーカーさんとしても彼女をただ自身の娘としては扱うことができなくて、そうあることで必然的に親子としての交わりが希薄になってしまっているんだろう。
「少しわかるな、その気持ち」
「私もおにいさんならわかってくれる気がしてた」
「どうして?」
「目を見ればなんとなく、生きていく上で経験してきたことって目に出るんだよっておとー様が言ってたの」
「そっか」
ミサが僕の左手を握る。
「おかー様もね、オブジェクトで体を侵されてたんだって。だから私の目がこうなったんじゃないかって、お医者さんが言ってた」
僕の左手に愛しげに触れる彼女を見て、僕は理解した。
この子は寂しいんだ、自分と同じ人がいないから。
システィーナさんが僕にミサのことを頼んだ理由は、僕の体の状態が彼女の母親と似ているからなのだろう。
ミサの前に現れた彼女に近い人間、こんな年頃の子が親にも甘えられず、友達も作れないのはあまりにも可哀想だ。
僕はミサの手をそっと握り返した。
「ねぇ、君さえ良ければなんだけど。僕の友達になってくれないかな」
「えっ?」
ミサは僕の言葉に驚き、顔を赤らめ目を逸らすと、繋いだ手を静かに見つめ、顔を上げて満面の笑顔で「しょーがない、お友達になってあげる」と言った。




