526回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 324: 闘王国ヘルズベル(7)
僕とシスティーナさんで食器を片付け部屋に帰ろうと使用人ホールに入るとドールハウスが目に入った。
スモーカー邸をミニチュアにした物のようで、かなり精巧に作られている。
「システィーナさん、これって」
「ミサ様が昔おままごとに使われていたドールハウスです。スモーカー様がお仕事で忙しくて、よくこちらに遊びにみえてましたから」
「触ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
ドールハウスを開くと、僕の周囲の光景が一変した。
応接室で団欒するスモーカーさんと、彼の奥さんらしき女性、それにミサの姿がある。
三人はとても幸せそうにたわいのない会話をしているようだった。
瞬きすると、小さくパキンと何かが割れる音がして元の使用人ホールに戻っていた。
「今のは……」
「このドールハウスはほんの少し魔石を使ってあって、おままごとを実体験しながら行えるんです。ハウスの中にはミサ様と私の人形もあるので、その体を使って参加することもできます」
「はぁーなるほど。魔石にこんな効果があるなんて、危険な物だとばかり」
魔石は幸福感と幻覚で陶酔をもたらし、使用者が魔石に依存していく麻薬のようなものだ。
おそらくこのハウスに使われている魔石はごく少量にしてあるんだろう。
量を調節してコントロールすれば有用な使い方ができるのは、麻酔用途で使う場合と似てるのかもしれない。
「こうした物の力には頼るべきではないのですが、ミサ様には必要な物でしたので」
システィーナさんは悲しそうな顔をしてミサの母親の人形を見た。
「彼女のお母さんって今はどこに?」
「亡くなられました、ミサ様を産まれた際に」
「そうだったんですか……」
「彼女は未来視のオブジェクトの契約者で、ヘルズベル王室所属の占星師でした。ミサ様を産めば自らの命はないとご存知の上でご出産なされたのです」
「その事を知れば悩まないはずはないですね」
「たとえ仮初でも、支えとなるものが必要だったんです」
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僕は使用人ホールを後にして、自室のある二階まで階段を登った。
窓からバルコニーで黄昏ているミサの姿が見えた。
「仲良く、約束だからね」
僕はバルコニーの入り口に向かい、扉を開いた。




