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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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53回目 命の意味を唄う者

焔屯(ほのむら (じんは消防士だ。

その時代の消防士はパワーアーマーで全身を包み火事の現場に赴く。

それまでの人命救助方法に比べて消防士の無茶が効くようになり、

人命救助率は95%まで拡大していた。

その原因は人の命の定義もその時代には拡張されていた事も要因となっている。

彼の時代では命の定義は肉体の保全ではなく、

ソフトウェアとしての人格の保護となっていた。


要救助者の肉体の損耗が激しい場合、その脳に剣のような電極を差し込み脳内情報を持ち帰る。

今ではそれが消防士のやる仕事となっていた。

しかし侭は頑なに要救助者の肉体の保護を優先し、

その結果問題を重ね消防士をクビになっていた。


そんな彼を拾ったのがある民間保険会社だった。

保険加入者が災害にあった場合、その肉体の保護を優先して行う

会社が有する救助チームが派遣される。


輸送機の中でパワーアーマーの調整を行いながら侭は彼女に問いかける。

「お前には世界がどう見えてるんだ」

パワーアーマーの内部でシステムが稼働し、彼女はその問いに反応した。

「どうって・・・私は認識拡張まではしてないから、

 仮想現実にパワーアーマーのセンサー系の認識システムをマウントして、

 言うならモニターがたくさん並んだ管制室に座って見てるって感じ?」

「窮屈に感じたりしないか」

「システムの容量が許す限りなら仮想現実を作る事ができるし、

 私みたいな生存者向けのネットワークシステムもあるから退屈はしないけど。

 兄貴が私に興味持つなんて珍しいね、なにかあった?」

「生きてる実感はあるのか」

「ああ人間型アンドロイドに私の人格を移動しないかって話、

 私は今のままでいいよ、兄貴の手伝いしたいし。

 そもそも兄貴AI制御の技術もないし、軍人さんと一緒にやるのも嫌なんでしょ」


パワーアーマーは元々戦争に使用されていた技術を応用したもので、

本来はAI制御による高度な管制技術が必要とされるが、

人間の人格情報をAIの代わりに搭載する形でそれを簡略化する事ができ、

一般的にその場合に使用されるのは戦場で肉体を失い、

都市に戻ってきても社会的な居場所のない軍人の人格が使用される場合が多かった。


「ねぇ兄貴、やっぱりあの時の事気にしてるの?」

その問いに侭は答えず、パワーアーマーの調整を無言で進めていく。

彼女はその作業に合わせシステム面でのチェックも進めながら彼に言った。

「兄貴が命がけになって要救助者の肉体を助け出そうとするのがもし私の事が原因なら、

 私は気にしてないから」

いつでもやめてもいいよ

その一言を彼女はどうしても口にすることができなかった。


ゴンッと鈍い音をさせて輸送機のカーゴドアが開かれる。

火災現場からまだ距離があるのに生身の人間の肌なら焼けるほどの熱気が伝わってきた。

「行くぞセツナ。アシストを頼む」

「よろしくしてあげるよ兄貴、頑張ろうね」

侭はパワーアーマーのヘルメットを軽く撫でる。

セツナは彼のその動作が彼女に対する気づかいと知っていた、

小さい頃によく兄に撫でてもらった感触によく似ていたから。


セツナはまた覚悟を決める、

この現場でも兄を守る、そのために。


暗い夜の闇の中、輸送機から燃え盛る巨大な炎の柱と化した火災現場に飛び降りる

一体のパワーアーマーの姿があった。

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