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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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523回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 321: 闘王国ヘルズベル(4)

 パリッとした服の男二人はなにやら話し合って応接室を後にした。

 僕らをじっと見つめる目隠し白ドレスの女の子は変わらず佇んでいる。


 目隠しをしているのだから彼女がこちらを見ているはずはないのに、なにか視線を感じて気になる。

 良く見ると彼女は何か握りしめ、わなわなと手を振るわせていた。


 男達が部屋を出てしばらくしてから女の子は口を開いた。


「あなたね?こんなとこで混沌侵食を起こそうとしたのは!!」


「へ?」


「アミュレット壊れちゃったじゃない!弁償してよね弁償!」


 彼女はそう言って手にしていた割れたブローチをこちらに見せた。

 さっき生命力探知が途中で邪魔されたのはどうやらあのブローチの仕業のようだ。

 にしても見た目と人間性のギャップが凄い。


「なによ鳩が豆鉄砲食らったような顔して」


「見た目的に物静かで清楚な感じかと……」

 陽介が口を滑らせた。


「なによ私の見た目でこの性格じゃいけないってわけ?人を見た目で判断しちゃいけないんだからね!ぷんぷん!!」


「あ、はい……」

 陽介も反応に困っている。

 よくよく見てみると年相応の幼い物言いではあるのかもしれない。


「ミサ様それくらいになさってください、彼らはスモーカー様のお客人です」

 システィーナさんが見かねてフォローしてくれた。


「おとー様もおとー様よ、正体不明の人たち連れ込んじゃって。けーかい心って物がたりないのよね」

 お父様ってことは彼女はスモーカーさんの娘なのか。

 僕がオブジェクトを使った事で、よほど困らせてしまったみたいだ。


「ごめんね、まさかそんなことになるなんて思わなくて」


「……謝ってくれるなら許すけど」

 そういいながらミサはじわじわとベイルに距離を詰めて、アリスと二人でもふもふし始めた。


 ベイルが困った表情でこちらを見る。

 僕は苦笑しつつベイルに手を合わせて二人の相手をゼスチャーで頼むと、彼は首を横に振り観念してされるがままにもふもふされはじめた。

 これはこれでなんだか平和でいい眺めだなぁ。


 それはそうとミサが気になることを言っていた。


「混沌侵蝕を起こそうとした、ってどういう事?」


「もしかして自覚なかったの?とんでもなくやばいことしようとしてたのに?」

 ミサは目隠しをしていてもわかるくらい、信じられない!といった困惑の表情をした。


「この都市に入るときにはぐれた仲間の生命力を探知しようとしたんだ」


 僕の言葉を聞いてミサはもふりをやめて真剣な顔をした。


「誤魔化そうとしてるわけじゃないみたいね、知らないなら教えてあげなきゃ。いい?あなたのオブジェクトあなたが思ってるよりずっと力が強いのよ、普通の人が使ったらすぐに取り込まれちゃうくらい」


「うえ、マジかよ」

 僕より先に陽介が驚きの声を上げた、というかいつの間にか彼もベイルをもふっている。

 おのれ、僕だってもふりたいのに……じゃなかった。


 いきなり言われても琥珀のダガーがそんなに危険なものだとは思えない。

 たしかに手に入れてから時々左腕が痛むけど。


「やばいって僕は何をしようとしてたの?」


「あなたは見るんじゃなく、混沌侵食を広げて直に触って確かめてたの。あれって怖い力だよ、触れるって事は握り潰すことだってできるんだもの」


 全く自覚なかった、たしかになんとなくで使ってたけど、そんな大それた事してたなんて。


「この都市には私みたいにアミュレットを持ってる人がいるから、ここにいる間はあの力は使えないよ。壊したアミュレットの賠償金で借金まみれになりたいなら止めないけど」


 将冴の言っていた「それはお前が思っているようなものじゃない」という言葉が脳裏に浮かんだ。


「わかった、忠告ありがとう」


「わかればいいのよ。本当は手放して欲しいけど、そうもいかない事情がありそうだし」


 ミサはそう言って僕の左腕を見た。


「左腕がどうかしたの?」


「オブジェクトになりかけてる、それも自覚ないみたいね。何らかの力で普通の腕に見えるようになってるみたいだけど、木と肉の混ざり合ったグロテスクな形してるよおにいさんの腕」


「そんな馬鹿な」

 僕はゾッとして左腕を見る、手を握り広げてみてもただの腕にしか見えない。


 からかわれてるようにも思えるけど、ポプラの死刃は「認識を殺す」だとワリスが言ってた。

 つまり記憶に対する認識以外に、彼女がこの左腕の異常に対する認識を殺したのだとすれば、辻褄はあってしまう。

 一目見ただけでわかるなんて。


「君は一体何者なんだ?」


「私は混沌侵食専門の監察官だよ。おかー様が契約者でね、その影響なのか生まれつき目が良すぎるの」


「目が良すぎる?それと混沌侵食に何の関係が?」


「この世界の光は混沌の渦から放たれてるエネルギーなのは知ってるよね、私の目は生まれつき混沌のエネルギーをキャッチしやすくて、目隠ししてないと見えすぎて目が焼けちゃうんだ」


「それで目隠しをしてるのか、大変そうだね」


「そこは大丈夫、目隠ししても見えちゃうから。これで丁度いいくらい」


「それは凄いな」

 どうりでさっきの視線や、迷わずベイルをもふりにいけたわけだ。


「私の目はカオスオブジェクトが発生させる混沌のエネルギーの流れと性質が見えるの。だから今起きてる混沌侵食がどういったものかある程度把握できる。それでこのもふもふみたいな人の診断を調査官に依頼されたりするの」


「もふもふ言うな!」

 ベイルが抗議の声を上げた。

 ベイルの状態か、聞けるなら聞いておきたい。


「おにいさんこのもふもふさんととても深い繋がりがあるんだね。彼を元に戻せたのは、隷従の首輪の混沌の力と、おにいさん達の繋がりが起こした奇跡みたいなものだよ」


「奇跡……」


「首の皮一枚首輪で繋ぎ止めてる状態だから当然隷従の首輪は外しちゃダメだよ。なんとか現状を維持できてる間に、なにかしらの対処を見つけた方がいいかもね」


「モンスターの先祖返りを何とかする方法があるの?」


「それに関してはこの国の誰も知らない、先祖返りしたモンスターは研究もされずに放逐されちゃうし」


「そうか……」

 ドルフと連絡がつけば何か聞けるかもしれないけど。


「本来あり得ない事が起きてる、だからこの先どうなるかわからないの。無理は禁物」


「わかってらぁ、あんなのは二度とごめんだ」

 ベイルはそう言って渋い顔で目を潤ませ耳を伏せる。


「ベイル……」

 僕はベイルの頭を撫で、彼は僕に頭を傾けて目を細めた。


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