518回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 316: 血染めのアリーナ(9)
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「はぁああっ!」
棄獣が住民に放った無数の触手を山刀で斬り払っていく。
硬化した触手が僕に向けて放たれ、体捌きと斬撃で交わす。
ターゲットが僕に切り替わったらしく、住民達の退路ができた。
「逃げて!」
僕をみて戸惑っていた住民達は申し訳なさそうな顔で「すまねえ!」と叫び離れて行った。
触手を斬り払い速度が落ちる瞬間を狙われ、山刀に触手が絡まり硬化して抜けなくなった。
「なんのっ!」
すかさず放たれた攻撃。
僕はそこを支点に体を浮かせて攻撃を交わし、空中で琥珀のダガーを起動する。
無数の木の根が棄獣を貫きコアを抉り取った。
仕留められた三体の触手が緩み、僕は山刀を引き抜き触手の上を走り、棄獣の包囲網を抜け生命力を探知する。
「次はこっちか」
逃げ場を失った住民の居場所を察知すると、瓦礫を駆け上がり、建物の上からその場所を目指した。
棄獣を倒し尽くすのは不可能だ。
だから僕らは住民や都市からの来訪者の脱出経路を確保する事にしたのだ。
今朝まで人々の営みのあった場所が、今は無惨にも破壊し尽くされている。
「こんなあっさり無くなっちゃうんだ……」
僕はやるせない気持ちを噛み殺し、住民の救出に向かった。
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「くそっくそっ!どんどん増える」
「まずいな、囲まれた」
僕は生存者を救助しながら仲間と合流、助け出せる生存者は全て逃したが、今度は僕らの退路がなくなってしまっていた。
「付き合わせてごめん」
「気にするなって、お前が真っ先に逃げ出しててこうしてたしな」
「私には助ける力がある、見捨てられない」
陽介とアリスは抜群のコンビネーションで連携しながら答える。
「雄馬のいる場所が俺の居場所だ」
ベイルは僕にそう言ってウィンクした。
「ミイラ取りがミイラとは、間抜けもいいとこだがな」
「将冴、こういう時くらい空気読めよ」
「そう言いながら付き合ってくれてるの感謝してるよ」
「歯の浮くような言葉を言う」
そう言いながら将冴はみんなが動きやすいように敵の動きを爆発でコントロールする。
ムスッとしながらも彼も最善を尽くしてくれている。
「みんな、ありがとう」
謝るよりも感謝を、諦めよりも足掻きを。
今はみんなで生き残るための最善を尽くさなくちゃ。
「んっ?」
僕は生命力感知でおかしなものを察知した。
「どうした?」
「なんか来る……すごい速度でこっちに迫ってる!」
その何かが来る方角を見ると、棄獣がなにかにポイポイと上空に弾き飛ばされていく様子が見えた。
それが近づき、ベイルや陽介達が戦慄する。
「おいおい、なんだぁ?」
棄獣の群れを吹き飛ばして現れたのは、高さ三メートルほどの超巨大筋肉牛の群れと、それが牽引する戦車のような牛車だった。




