514回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 312: 血染めのアリーナ(5)
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一方その頃、闘技場集落を守るロープに怪しい人影がいくつかあった。
先日雄馬に倒された中年剣闘士と、その仲間達だ。
「なぁ、本当にやるのか?」
ロープに手をかけようとした中年剣闘士に仲間の一人がおずおずと尋ねる。
「コケにされたままで気が済むのかお前は」
「す、すまねぇけどよ」
「けどなんだ?おい、文句あるってのか?あ?」
中年剣闘士は怒りに顔を歪めて、自身に声をかけた男に剣を突きつけた。
「ヒッ、ないない、ねぇよ文句なんて。ただおっかなくなっちまって」
「チッビビりが、今日は都市から金持ちがわんさと来てる。棄獣に闘技場が襲われてるどさくさに紛れて馬車を奪えば余裕で都市入りだ、逃げ遅れるのは試合してる雄馬って奴ら連中と観客くらいだろうぜ」
「ほう、足りない頭で考えたもんだな」
「!?誰だ!!」
男達は知らない声が聞こえて、一斉に武器を構えあたりを伺う。
しかし誰もいない。
「気のせいか?」
「こっちだこっち」
声がして全員がそちらに向き、一人が声の方角にナイフを投げた。
しかしそちらには何もない、ナイフも岩影に刺さっている。
「ウギャッ!?」
ゴツンという音と共に男達の一人が悲鳴を上げて倒れた。
「なんだ、どうした?」
「わかんねえ、いきなり倒れて」
「グキュッ」
また一人妙な声をあげて倒れる。
「まさか幽霊とか……」
「バカ抜かせ、さっきの声聞いただろ。誰かいるんだ、物陰から離れて一つに固まるぞ」
中年剣闘士がそう言うと、男達は背中を合わせ三方向を監視できる体制で武器を構えた。
「なるほど、悪くない判断だ」
「このっ!」
「待て、焦るな」
声がした物陰に攻撃しようとした男を中年が引き止める。
「集団で剣闘士としてやってきた勘って奴か」
「それなりに戦える癖にせこい事考えやがって」
「なんなんだよぉ」
聞こえるたびに違う方向から声がする事に中年の他二人は震え上がった。
「反省なんてしなさそうだし、終わらせちまうか」
「ギャッ!?」
中年の周りにいた二人が落下するように姿を消し、岩場の上の方から落下し動かなくなった。
「ヒィッ」
さすがの中年も腰を抜かしてへたりこむ。
「さて、残りはお前だな」
彼の眼前の岩影から声がして、闇の中から虎の顔をしたモンスターが武器を携え姿を表し、中年男は白目を剥いて気絶した。
「なんだよ、最後の一人くらい戦ってやろうと思ったのに」
ドルフは不本意そうに後頭部を掻きながら、剣闘士達が死んでいないことを確認し、用意していた縄で縛り上げた。
「殺さずに捕まえるなんて、優しいモンスターもいたものねぇ」
そう言いながらワリスが鎌を担いで歩いてきた。
ドルフはフンっと鼻を鳴らして彼女を無視する。
「あらつれないんだ、お手伝いに来たのに」
「白々しい、こいつらはお前の差金じゃねえのか」
「残念だけど無関係、さらに言うとこんなもんじゃ済まないから覚悟して」
「はぁ?」
ワリスの言葉にドルフが首を傾げると、ワアッと集落の住人が叫び声をあげながら迫ってくるのが見えた。
十人、二十人、さらに増えていく。
「おい、まさかこれ全部」
「そう、みんなロープ目当てのお客さん。ガルドルの力で操られちゃってるみたい」
「笑ってる場合じゃねえぞ!!」
楽しそうに言うワリスにドルフは吠える。
二人は襲いかかる人々に向かい武器を構え、走り出した。




