52回目 刻の不文律
日本が少子高齢化と他国と官僚の密約により国力を失い、他国によりオモチャとして蹂躙され、
都市は廃墟になり人影も見かけない荒野になった世界。
日本が本格的に壊滅する前から日本人のエリートがアメリカやイングランドにおいて社会的な有用性を示し、
それを担保に人権保護区を作りそこに住む日本人だけが人権を保障されていた。
日本が島国であることを利用して諸外国は日本を利用してある実験を開始し始める、
タイムマシンによるタイムパラドクスが日本にだけ起きるように完全に管理し、それを観測調査する実験だった。
亡国となった日本に建造された人工都市で暮らす何も知らない人体実験隊の日本人たちを観測する男がいた、彼は海外エリートの日本人青年だった。
彼は観測者の体をなして日本に忍び込むスパイと情報を取引し、
未来と現代との情報のスワップを秘密裏に行なっている人間を他の観測者に気づかれないうちに始末するのが仕事だった。
都市の人間と親しくなったり、個人的に情が移った人物たちと時を超えるたびに死に別れているような感覚に陥り、彼は他人と関わるのをやめた。
彼にとってはその国はやがて死にたえる死の国でしかなかった。
ある時から知り合った監察官と親しくなり心に平穏を覚えるようになるが、
彼女の目的は彼の動向の調査をして仲間が彼にマークされないように環境や情報を操作することだった。
それを知りながらも彼は彼女だけは処刑対象から意図的にはずすようにしていた。
その状況で彼女の代わりに繰り上げて殺していくことに対する罪悪感から彼の精神は崩壊していく。
勤めが終わるまでのノルマはあと二人、あと二人殺せば彼はそこから抜け出せる。
青年は身体に死臭がこびりついて剥がれない感覚に苦しむ。
過去とは時の亡骸なのだと彼は気づく、
時を超える度に彼は腐敗した亡骸から零れ落ちる血液の海をどこまでも深く潜り続けている。
それを行う者は皆歪んで人としてどこか壊れていく。
彼は本能的な意識の底で禁忌を犯した人類の辿るだろう未来を予感する。
「あと二人だ」
彼の脳髄にはもうその事実しか残ってはいなかった。




