513回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 311: 血染めのアリーナ(4)
「くそッ!」
ベイルは自身の腕を貫いたブンディダガーを爪を使い引き抜き、そのまま小男に攻撃した。
「キッキッィイ」
小男はベイルの腕を蹴り宙を舞う。
ニヤリと笑いながら着地すると、すかさず地面を飛び回り始めた。
「ちょこまか動きやがる……」
ベイルは小男の動きが捉えきれていないようだ。
小男の攻撃時に捕捉、爪で弾くを繰り返す。
ふと腹と腕の傷が痛んで動きが鈍る。
その隙を突かれベイルは小男に足払いをされ姿勢を崩した。
しかし彼は地面に手をつき、そこを支点に蹴りを放ち小男の追撃をしのぐ。
蹴りの勢いで起き上がり、小男の横面に爪を振る。
「っつゥッ」
傷の痛みで速度が足りず避けられ、腹に蹴りをくらいベイルは口から血が垂れる。
ベイルは相手の蹴り足を掴み、捻って折ろうとする。
小男は体を回転させ、ベイルの肩を蹴って脱出した。
ベイルの周囲を回る小男。
ベイルの腕から出血が続き、ベイルがふらつく。
「キヒャアッ」
死角から小男がベイルに襲いかかった。
甲高い金属の衝突音が響く。
「間に合った!」
僕は山刀でブンディダガーを斬り払った。
小男は地面に転がり瞬時に僕の背後に跳び、攻撃を仕掛けてくる。
僕は山刀を手元で回転させ背後に向けて突きを放ち、小男の攻撃を逸らし、体を回転させハイキックで相手の側頭部を蹴った。
感触が軽い、相手の体が軽くてダメージが入らなかったらしい。すぐさま小男の反撃が来る。
斬撃を受け流しながら体捌きで交わし、上段に構えると、小男は既に横に移動しこちらの対応が難しい角度から下段攻撃を仕掛けてくる。
「なんの!」
僕は上段の構えを解き下段攻撃を袈裟斬りに払う。
腕の力だけで振るった一撃、しかし十分弾き返せた。
離れようとした小男の二の腕を蹴るが、当たった瞬間に跳ばれて空を蹴ったような感触。
やはり小男にダメージは入っていない。
「ちいッ!」
小男は舌打ちすると僕の周囲を飛び回り始めた。
僕は山刀を構えながら足運びで死角を塞いでいく、しかし間に合わない。
肩に向かって放たれた斬撃を、手首を返して山刀を盾にして受け流す。
「速いな」
山刀を持ち直し斬撃を放ち小男を遠ざけた。
隙を見せたら即死角を突いてくる。
一つ一つの攻撃が軽い代わりに、体の軽さを使ってダメージを殺される。
それに身軽さからくる急停止からの爆発的な瞬発力が厄介だ、それならば。
「雄馬!」
小男の猛攻を受ける僕にベイルの援護が入る。
しかし彼の爪は空を裂き、次の瞬間ベイルの背中に小男の刺突が迫る。
「させない!」
すかさず僕が割って入り小男の顔に斬撃を放った。
「ギギィッ!!」
回避した小男の刺突がずれた、ベイルが体を翻して小男の脇腹に蹴りを入れる。
しかし浅い、小男は距離をとり再び飛び回り始めた。
ベイルと背中を合わせる。
ベイルの呼吸と筋肉の動きを感じとり、彼のテンポを掴む。
小男が地面を蹴る音、ベイル側だ。
僕は体を捻り攻撃に備え、ベイルが体捌きで小男の攻撃を交わす。
僕はすかさず小男の攻撃に片手で斬撃を放って動きを封じ、彼の腕を左手で掴んで引き寄せ、右アッパーを小男の顎に叩き込んだ。
まだ気絶していない、小男は受け身を取ろうと空中で姿勢を変えようと動く。
「ベイル!」
「しゃあ!!」
ベイルはすかさず駆け出し小男の下をスライディングで抜け、その姿勢で小男の後頭部に蹴りを放ち、起き上がりざまに右袈裟に踵落としを小男に放って地面に叩きつけた。
「ギッ……キッ……」
小男の体が脱力する、どうやら気を失ったらしい。
ベイルが笑顔で僕に軽く体当たりした。
「雄馬といればどんな奴でも敵じゃねえな」
「調子いいんだから」
僕はベイルの腕に軟膏を塗る、するとみるみる傷口が消えた。すごい効き目だ。
山刀を手に敵側の門を見る。まだ油断はできない、倒した人数は四人、つまり。
「そろそろ真打登場かな?」
おじさんがヘラヘラと言う。
轟音を立て敵側の門が内側から吹き飛び、中から巨大なマンモスのモンスターが飛び出してきた。
「げえーッ!?」
ベイルが目を丸くして驚く。
全員の体力的に厳しい戦いになりそうだけど、やるしかない。
「みんな!やるぞ!!」
みんなに呼びかけ、僕は自分自身に喝を入れた。
もう誰も死なせない、そのためにできることの全てを出し切るんだ。




