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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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507回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 305: ジンクス(1)

 試合の後ワリスから聞いた話では、明日の試合は剣闘士を買うために都市の資産家などが観戦に来るらしい。


 彼らは試合の後、野球で言うところのドラフトのような形で競りを行い剣闘士を取得する。

 そして購入者と剣闘士は、主人と奴隷というより、パトロンと選手に近い関係らしい。

 少し意外だったが、スター剣闘士になった後の諸々の面倒ごとを回避していたら現行の体制になったとの事だった。


 剣闘士購入に使われた代金は集落の共有財産として扱われ、その金銭を用いて都市側の物資の購入を行う。

 そのため高く売れそうな剣闘士に対しては手形が貸し与えられ、食事や治療が無料で行える。


 この集落における村長にあたる者が、この地方闘技場の興行主の立場でもあるわけだ。

 奴隷頭のようなものだろうか。


 サイ獣人達は重量級モンスターと言われていて、それを二人で倒したのはかなりの腕と評価を受けた。

 おかげで手形が与えられ、ベイルの治療を無料で行える事になった。


 この集落には医者が都市から出張してきてはいるが、手形なしで治療を受ける場合、治療費が払えるものはほとんどいない。

 つまり大抵の剣闘士が怪我をしたまま戦い続けることになる。


 その為にだろう、この集落では「初戦で怪我をした奴は都市入りする時に命を落とす」というジンクスがまことしやかに噂されているらしい。

 治療後に酒場で「ベイルの事はご愁傷様」などと他の剣闘士からやっかみがてら声をかけられることがあった。


 どうも今日の試合で良くも悪くも噂になっているらしい、悪目立ちはしたく無かったので迂闊だったかもしれない。


 医者の診療では内臓の破裂などはないらしく、血尿などがでる心配はあるが、ひとまずは問題はないとの事だった。

 ベイルも酒場の食事をあんまり美味しくないと言いながらガツガツ食べているし、心配はないと思うんだけど……。


 僕はベイルを自室まで送り届けると、ドルフにを探すことにした。

 様子も気がかりだし、彼なら何かいい助言をくれるかもしれない。


「とはいえ今ドルフがどこにいるのか検討もつかないんだよな」


 困って顎をさすって考えていると、ドクンとポーチから脈動を感じた。

 ポーチを見ると金色の光が漏れている、開けてみると琥珀のダガーが淡く発光していた。


「使えってことかな」


 琥珀のダガーを手にしてみると、感覚が一気に広がり思わず「うわっ」と声を出した。


 無数の光が意識の中に拡散し、その中の一つ、力強く暖かい気配、ドルフと一緒にいると感じる雰囲気の光が見えた。


「ここがドルフの居場所……これも君の力なの?」


 琥珀のダガーに尋ねるが返事はなく、僕は自嘲した。


「夢を見たからって武器に話しかけるなんて」


 僕は光を感じた方に向かった。


-

--

---


 闘技場の周辺をよく見渡せる崖の上で、ドルフは見張りをしながら難しい顔をしていた。


「ドルフ、お疲れ様」


「む、雄馬か、よくここがわかったな」


「琥珀のダガーを握ったらなんとなくわかっちゃった」


「生命力探知まで使えるようになったか。なんかいい匂いがするな」


 ドルフは鼻をくんくんさせ、お腹をぐうと鳴らした。


「あ……」


 彼は恥ずかしそうに顔を赤くする。

 別れた時から何も食べてないんじゃないかと思ったら案の定だった。

 僕はふふふと笑いながら、道すがら買ってきた大きな漫画肉の入った紙袋をドルフに差し出した。


「食べる?」


「ありがてぇ」


 ドルフは照れ臭そうに頭を掻きながら紙袋を受け取る。

 彼は地べたにあぐらをかき、紙袋を足に乗せ両手を前に合わせて「いただきます」と言った。

 よほど腹ペコだったようで、彼はすぐさま漫画肉に齧り付いていた。


「日本式なんだ」


「もが、あぁ、お前の出身地がこうするって聞いてからたまにやってんだ」


 にぃっと笑いながらそう言うドルフが愛らしくて、思わず抱きしめて揉みしだきたくなるのを堪えながら、彼がガツガツと肉を食べる様を眺める。

 大柄な虎獣人に漫画肉が合わさるとワイルドで最強な気がする。

 見たいものが見れた、僕は静かに拳を握り締めて打ち震えた。

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