506回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 304: 弱者の戦い方(4)
ベイルが何かの音に気付き控室に続く通路側を見た。
そこから五人の剣闘士がやってくる、その中には昨日約束したあの中年の姿もあった。
「随分遅い到着だな、もう俺たちだけでやっちまったぞ」
悪態を吐きながらベイルは顔を顰める。
彼も後から来た剣闘士達の殺気に気づいているようだ。
「お前が昨日倒した奴は試験落ちちまったら生活できねぇー困るんだよなぁ」
剣闘士の一人が剣を引き抜きながら挑発的に叫ぶ。
彼らは近づき僕らを取り囲む。
「雄馬がズルしたわけでもあるまいし、何言ってんだ」
「うるせえ!けむくじゃらが、人の言葉話すんじゃねえ!」
「んだとこのっ!」
激昂しそうになったベイルの後頭部を撫でてなだめる。
怪我をしてるベイルが前に出るべきじゃない。
それに、わざと怒らせ自分たちの優位に運ぶつもりなのだろう、そうはさせない。
「憐れみであいつの財布に金入れたみたいだけどな、あんな端金じゃ足しになんねぇんだ」
「他人に恵んで差し上げるくらい金が余って仕方ねぇなら、有り金全部貰ってやるよ」
剣闘士達は下卑た笑いをしながら一斉に武器を構えた。
「身の程ってやつを教えてやらねぇといけないみたいだぜ」
「僕がやるよ」
「大丈夫か?雑魚でも人数いれば面倒だぞ」
「僕の責任だから」
僕は心配してくれるベイルに苦笑いで応えた。
「雑魚扱いすんじゃねえ!」
剣闘士が二人背後から襲ってきた。
僕はその二人の鼻先に右後回し蹴りを放ち、左から来たナイフ一人を右に体捌きしてかわし、右の肘で相手の鼻先を突く。
後左右から二人、羽交い締めしようと飛びかかる。
僕は左足で軽く飛び、右足を軸に上半身を斜め下にして高速回転、左足で襲いかかっていた二人の鼻先を蹴った。
一呼吸間をおいて、剣闘士達は一斉に鼻血を出した。
「うええぇ……」
みんな涙目になり武器を落として戦意を失った。
「地味に嫌でしょ?」
武術を習ってた頃にやられた経験を思い出して苦笑いする。
戦い慣れてない人ならこれで戦意を無くす。
もし向かってきても、鼻血のせいで呼吸しずらく、制圧も容易になる。
「剣闘には支障ない程度にしといたけど、次に来たら手加減しないよ」
「グソが、おぼえでやがれ!!」
「おー、覚えてるうちに仕返しに来いよ」
「ベイルったら煽っちゃダメだよ」
「俺の雄馬を騙した連中だ、ただじゃおけねえ」
「俺の雄馬だなんて、言うねぇベイル」
ベイルに体を寄せると彼は顔を真っ赤にして「ま、まぁな」と呟き頭を掻いた。
「災難だったね」
客席からワリスが話しかけてきた。
「弱い奴には弱い奴なりの戦い方があるって事。世渡り考えながら戦わないと、毒盛られたり大変だよ、気をつけてね」
「ここの剣闘士ってそんな揉め事も起きるの?」
「そうだよ、言ったでしょ?適正試験だって。人が良さそうだから彼をあてがわれたんだよ。剣闘士としてやっていけるかどうか見るためにね」
単純な戦闘能力だけでなく、剣闘士として生活していけるか、そういう能力まで見られていたわけか。
たしかに大金叩いて買った剣闘士が、すぐに自滅しましたでは話にならない。
ワリスは僕の顔を見つめて不機嫌そうな顔をした。
「どうかした?」
「この期に及んでなんだかぽわぽわして深刻さに欠ける顔してるから」
「昨日僕が負かしたあの人、あれだけ仲間がいるなら大丈夫そうだなと思って」
「あー、これは筋金入りのお花畑だ」
ワリスは驚きと呆れの混ざった顔をして顔に手を当てた。




