505回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 303: 弱者の戦い方(3)
サイ獣人は三人。
二人が手にしたハルバードによる刺突と斬撃が迫る。
ベイルが刺突を払い、僕が斬撃を山刀で受ける。
ハルバードは槍と斧が一体化したような構造の武器だ、槍の長さと斧の重量で放たれる斬撃の衝撃は並の剣ならへし折り、鎧を潰す威力がある。
「ぐうッ」
サイ獣人達の体重も恐らく180Kgほど、それに助走と膂力が加わるわけで当然受け止め切れるはずがない。
山刀の刃を逸らし斬撃を受け流し、相手の顎に回し蹴りを入れる。
硬い、身じろぎもしない。
サイ獣人はお返しとばかりに僕の横腹に蹴りを放つ。
「ぐゥッ!!」
太腿と肘を使い真剣白刃取りのように蹴りをとらえ、相手の蹴りの威力を殺すためあえて吹き飛ばされる。
空中で姿勢を整え着地に備えていると、もう一体のサイ獣人が「ゴルルァァアアッ!」と雄叫びをあげながら、顔についた角を突き出しながら僕に突進を仕掛けてきた。
まずい、この状況じゃ避けられない。
「雄馬!!」
直撃を覚悟して身構えていると、僕とサイ獣人の間にベイルが飛び出し、サイ獣人の突進をモロに食らってしまった。
「ぐあああっ!!」
「ベイル!」
ベイルは血を吐きながら吹き飛ばされ、壁に激突し地面に落ちた。
震えながら立ち上がろうとする彼に、サイ獣人達がトドメを刺そうと走りだす。
アバター能力はもちろん、オブジェクトに関しても使用してはいけないのがもどかしい。
僕は地面に落ちていたハルバードをサイ獣人の背中に投擲し、走る。
サイ獣人の一人が投擲に気付きこちらを見た、振り向きざま喉元を切り裂く。
サイ獣人は目を見開き、首からゴボゴボという音をさせ、両手で首を押さえる。
僕はサイ獣人の手から落ちたハルバードを掴み、「こっちだ!」と叫ぶ。
サイ獣人二人は振り向き、標的を僕に変えた。
ハルバードの槍の部分を使った斬撃と、山刀の二連撃。
直撃した一人の体が裂け、怯んだ。
もう一人が僕に向かい突進してくる。
僕は迫ったサイ獣人の両肩に手を当てて跳び、サイ獣人の勢いを利用して宙を舞い、山刀でサイ獣人の延髄を横薙ぎに切り裂く。
サイ獣人の体は制御を失い地面を転がり、全身をバタバタと痙攣させて動きを止めた。
残る一人が傷口から血を垂れ流しながら突進しようとした。
「させねぇよ」
その言葉とともにサイ獣人の腹を鉤爪が突き破り、そのままサイ獣人の腹部を横に引き裂き内臓を抉り取ってぶちまけた。
サイ獣人が倒れ、その向こうにいたベイルの姿が見える。
「ガッ……フ」
ベイルが吐いた血が地面を濡らす。
「ベイル、動かないで」
僕は彼に駆け寄ると体の具合を見た。
傷の位置は腹部にある、内臓をいくつか損傷してるかもしれない。
「なんとか格好はついたか?」
「格好なんかより体の心配して、ベイルに何かあったらどうしたらいいか……」
「わりぃ、誰かにそこまで大事に想われるの初めてでさ」
ベイルは申し訳なさそうにしながらも、どこか嬉しそうな顔でそう言った。
「僕とベイルはつがいなんだから、自分だけの命と思わないでね」
僕はベイルの鼻を人差し指で触れながら言う。
ベイルは「わかったよ、へへへ」と嬉しそうに笑った。




