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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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51回目 ヘレティック・ヴォルガー

いつかの未来の地球、そこはありとあらゆる生命が滅亡した死の世界だった。

そんな中人類最後の生き残りとなった女性結衣と少女まりあはいた。

二人は互いをただ一人の母と娘として日々を暮らしていた。


彼女たちはAIロボットを遠隔操作し海や森や砂漠の基地を利用し、

有機体で作った人工生命体で生態系を新たに地球上に生み出そうとしていた。


二人は次々に様々な生き物を作り生態系を操作して構築していく。

しかしそんな中で突然変異のヴォルガーと呼ばれるモンスターが時々発生し、

結衣はそれをまりあに気づかれないようにAIと共に倒しにいく。


ヴォルガーは人間の種として全ての生体系に意図的に仕掛けられたシステムの上で発生していた。

変異の工程を経ていく中で人工的な生態系の変動進化を促していく。

結衣とロボット達の行うそれはいわば未熟な蕾を切り落とす剪定のようなものだった。


結衣が夕日を眺めているとロボットからそろそろ時間だと教えられる、

彼女はまりあの頭を撫でると彼女を寝室に誘う。

まりあはベッドというよりも棺のような巨大な装置に横たわると結衣を見つめた。

彼女を実の母と信じ切ったその瞳に結衣の心の奥の方に少し痛みが走る。


「次に起きた時には人類が生まれてるといいな」

「明日には無理よ、でもいつかきっとその日は来る」

「お友達できるといいな」

「たくさんできるわよ、楽しみね」

「うん」


カウントダウン装置の数値を横目に確認すると、結衣はロボットに視線で合図を送る。

「おやすみ、まりあ」

「おやすみなさい、ママ」

まりあが目を閉じると彼女の眠る寝台部分が装置に沈み、

強化ガラスのカバーが彼女を包み込む。


まりあのバイタルサインを示す計器が彼女の状態が冷凍睡眠状態に入ったのを示すと、

結衣は母親の仮面を脱いでロボット達に作業指示を始めた。


結衣はまりあの知る母と同一人物ではない。

クローンで自身の記憶を代を引き継ぎながら継承していて、

まりあに会えるのはまりあが記憶している母親と同じ年令の時だけ。

彼女の細胞の定期メンテナンスの1日間だけ彼女は目覚める、彼女の次の明日は80年後の今日だ。


「私は彼女の母親らしく振る舞えただろうか」

結衣は少し自信のない声でロボットに尋ねる。

彼らは作られた存在ではあったが、

今から何代も前の彼女たちを知る唯一の存在でもあった。

「時折貴女自身の人格の面が強くでてしまう時もありましたが、

 まりあは貴女との時間を楽しんでいるようでした」

その言葉を聞いて結衣は微笑む。


緊急警報が鳴り始める、新しいヴォルガ―が発生した。

結衣は慣れた手つきで装備品を身に纏いながらビークルの元に走る。

ロボットが助手席に座り彼女を見る。

「やはり貴女の人格は母親向きではないらしい」

「そう」

娘のための母親の時間は終わりだ。

「行くわ」

「作戦目的の設定を求む」

「皆殺しよ」

これからは娘のための狩りが彼女の生きがいだ。

彼女の口元は野蛮に歪んでいた。

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