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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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501回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 299: 闘技場

 森へ通じるゲートに向かい手を振るキャラバンの人たちと別れると、僕らは剣闘士になるべく闘技場へと向かった。


 木製の大きな闘技場を中心に、ちょっとしたスラム街のようになってる場所にたどり着く。

 外周をぐるりと取り囲むロープ、これはワリスの言っていたオブジェクトなんじゃないだろうか。

 

「みんなちょっと待って」


「どうしたの?」

 ワリスは不思議そうな顔をして僕を見ると、すぐに理由に気づき「あーそれね」と呟く。


「そのロープはオブジェクトだけど、対象は人間じゃないし、外側に作用するようになってるから平気だよ」


 そう言うとワリスは僕の背後を指さす。

 振り返るとそこには何体かの棄獣が、こちらに向かい猛然と走る姿があった。

 しかし距離は一向に縮まる気配はない。


「これが剣闘士になれば棄獣の心配はないって理由か」


「そーゆーこと」


 ワリスはにこりとそう言って歩を進め、僕らもロープを跨いで闘技場に向かい歩く。

 大通りを歩いていると、いろんな出店が並び、活気があってなんだかサーカスのテント付近みたいな雰囲気だ。


「なあ、なんか店の横に杭に刺した生首並んでるのなんなんだ……?」

 ベイルが怖がり僕の腕を掴む。


「盗みを働いたり、強盗しようとした奴の首だよ。数が多いほど店主が強いって目安になってるの」

 ワリスが話すそばから首の数が一つしかない店に強盗が入り、金を奪い取っていった。


「わかってると思うけど手は出さないでね、目立つと不味いから」


「警察みたいなのはないの?」


「弱い人には価値はないって考えだからね。ここは半分ヘルズベルの都市みたいなものなの」


 キャラバンが必要な理由はそこにあるようだ。

 正気を保ちつつ廃棄されなんとか生き延びてここに辿り着いても、腕っ節が強くなければ生きていけないなんて。

 普通に暮らしていた人が生きていける環境じゃない。


「ようお兄さんモンスターだね。新鮮なエルフの種があるけど見て行かないか?」


「エルフの種だと!うわ、本当に売ってやがる……」

 ドルフは目を丸くして驚愕している。


「なんなのそれ?」


「エルフは子供を産む時種で産んで、産土ってとこで発芽させて赤ん坊にするんだ」


「えーと、つまり人間で言うと胎児を食品として売ってる感じ……?」


 ドルフは吐き気がするといった顔でうなづく。


「ここに住んでるモンスターは精がつくってんでよく食うんだが。お好みじゃなかったかね」


「いくらモンスターっても、悪食かサイコな奴しか食わないよなそれ」

 ベイルもドン引きしながら言った。

 見た目はただの種なのにそんなにヤバい代物とは、あっちょっと脈打ってる……よく見るとグロいかもしれない……。


「なんだい、冷やかしならよそでやってくんな!」


 店主さんを怒らせてしまい、しっしっと追い払われてしまった。

 僕らが離れると、モンスターの客が現れて紙袋に一掴み分買っていった。

 貨幣はメルクリウスと同じものを使ってるみたいだ。


「にしてもこの賑わい、みんな都市から追い出された人達だなんて信じられないな。お店も品物豊富だし」


「ここに関しては都市と交易があるから、物資もちゃんとあるよ」


「交易って、ここは何を都市に売ってるの」


「剣奴、つまり剣闘士だよ」

 

 そうか、当たり前の事なのに考え付かなかった。

 都市で自由市民が道楽でやる以外、剣闘士になるって事は奴隷になるという事だ。


「不安?」


「まったくといえば嘘になるけど、ベイルがしてくれたことを思えば平気だよ」


「雄馬……」

 ベイルは僕の言葉を聞いて目を潤ませ抱きついてきた。

 その首には未だに奴隷契約の首輪がある。

 

「悪いが俺はパスさせてもらうぜ、全員奴隷になったら不測の事態に対応できねぇからな」

 ドルフはそう言いながらワリスに対して不信の目を向けた。


「へーおもしろ、本当に何かしらの対策してるんだ。虎のおじさんの感情はわかんない、まぁ顔見れば一目瞭然だけど?」

 ワリスはドルフに煽るように言った。

 たぶんドルフとも戦いたいからだろうけど、彼は彼女の意図を知ってか知らずか、不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


 確かに全員が言われるがまま状況を固定されるのは危険だ。

 プレイヤーだとバレるわけにはいかないから、戦う手段が魔法のアリスと将冴、鍛えてはいるけど陽介も槍一本アバター化無しでは命が危ない。

 この三人は除外するとして、どうやって都市に連れて行こうか。


「そこの三人は私が口聞いて自由市民待遇用意すれば良い?」

 ワリスは僕の心の中まで読んだようにそう言うと、驚いた僕の顔を見てしてやったりという顔をした。


「本当は考えてる事まで見えてたりしない?」


「この状況と感情がわかれば何考えてるかなんてすぐわかっちゃうの。凄いでしょ」


「すごい、じゃあ三人の事お願い」


「えー、棒読みぃ。心込めてよぉ」


「どうしてここまで俺たちに手を貸す、何が狙いだ」


 ドルフはゆるみそうだった空気の中、一人だけ緊張感を維持してワリスに尋ねる。

 たしかに本来敵対関係の僕らに手を貸す理由なんて彼女にはないはずだけど、もしかすると。


「キャラバンの事がなにか関係してる?」


「うん、私もいつまでもここにはいられないし。趣味でやってる事とはいえ無責任に放棄して、みんなを死なせちゃうのも嫌だから、雄馬君に期待してるんだ」


「期待?僕はそこそこ名を上げて兵士になるだけだよ?」


「雄馬君がそのつもりでも、結果的にいろんなことに巻き込まれて、ヘルズベルをメチャクチャに壊してくれるような気がしてるんだ」


「たしかに雄馬は厄介事に首突っ込みがちだけど」

 ベイルが考えながらそう呟く。

 

「ええいベイルめ!」


「ひゃあっ!?こんなとこで体弄るのヤメッ、俺が悪かったからっやめてっ!」


 ワリスとしては僕がヘルズベルの体制を覆し、キャラバンの人達がまた安全に都市で暮らせる環境にしてくれるのを期待してるわけか。


「期待に応えられるかはわからないけど、やるだけやってみるよ」


「うん、雄馬君ならやれるよ、絶対」


 爽やかな顔でワリスは僕を勇気づける。

 こうして話してると気のいい普通の人なのに。


 方針が決まった僕たちは、意を決して奴隷商の元へ向かった。

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