494回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 293: 価値無き者の命(1)
一晩明けて、僕らはヘルズベルの都市を見にいくことになった。
中には入れないので都市を取り囲む壁まで。
排気口から捨てられたゴミを拾うキャラバンの人達に同行するのだ。
集合予定の広場に行くと、陽介やアリス、将冴もやってきていた。ベイルとドルフは僕と一緒だ。
「まだ予定の時間じゃないはずだけど、みんな早起きだなぁ。……ふわぁ」
「眠そうだな」
「将冴との打ち合わせが長引いちゃって」
「あいつに変なことされなかったか?」
グルルッとベイルは将冴を睨みつける。
「どうどう、大丈夫だよ。協力の仕方についての話だから」
ベイルの頭を撫でると彼は瞬時にでれでれな顔で満面の笑みをしながら舌を出した。
懐っこい犬みたいで果てしなく可愛い。
僕は右手でベイル撫でを堪能しながら、左手で昨日打ち合わせした動きをおさらいした。
「ひぐっ!?」
「ん?」
僕の手の動きを見てドルフが身構え震えている。
「新しいテクニックを練習してたのか……?」
左手の動きを見るとなるほど、性感帯を弄る 五指触手 の動きそっくりだ。
「違うよ、これ真面目な奴だから。ドルフで試すタイプのじゃないから安心して」
「その手に関しては理解したが、話の後半が不穏すぎるぞッ」
手を叩く音がして僕らはそちらを見る。
そこにはワリスとキャラバンの人達がいた。
「はーい、みんな集まったかな?もうすぐ出発の時間ですよー」
ニコニコしながらワリスは言った。
「遠足かよ!」
陽介がつっこむ、僕もそう思った。
バナナはおやつに入るだろうか。
「こういうの一度やってみたかったのよね」
なんだか上機嫌な様子だ、彼女は僕をちらりと見ると柔らかく微笑む。
少しドキッとした。普通にしてたらワリスは体型もモデルみたいだし、女優みたいに綺麗な人だ。
「さて、みんな準備万端みたいだし、張り切って出かけましょうか!」
踵を返し「しゅっぱーつ!」とワリスが叫ぶと、キャラバンの人たちもオーッと言って拳をかざして応えた。
もしかして毎回出かける時にこれをしてるのだろうか?
そんなことを考え首を捻りながら、僕らはキャラバンの人達の後に続いてヘルズベルを目指した。
二本並んだ木の間を通ると、そこは荒野のど真ん中だった。
キャラバンの人がその場所を見回して、紙に風景を簡単に書き写していた。
どうやら帰る時はここを通ることになるらしい。
こうして一緒にいると、ワリスが交戦的なのは感情が見えてしまうが故なのかもしれないと思えてきた。
安心して一緒にいられる人かどうかを、こちらの感情を揺さぶって、その出方を見て判断しているのかも。
しばらく進んでいくと、先行して周囲を窺っていた三人のキャラバンの人が慌てて戻ってきた。
知らせを聞いたワリスが「へぇ」と呟き、顎に人差し指を当て「どうしよっかなー」と考え、僕たちの方を見返る。
「敵か?」
将冴は杖をインベントリから取り出しながら尋ねる。
「当たり、棄民を殺して回ってる鏖殺軍二十五人の小隊。丁度いいから君達が戦ってるとこ見せてよ」
そう言うとワリスはにんまりと笑った。




