490回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 289: 過去に祈りを、未来に願いを
「ドルフ、ベイルのことお願いしてもいい?」
「ああ、構わねぇけど。どこ行くんだ?」
「陽介とアリスの様子が気になるし、将冴も後で顔を出すようにって言ってたから」
「わかった、あんま遅くなんなよ?目が覚めた時にお前がいないとこいつ取り乱しそうだからよ」
そう言うとドルフはベイルの鼻の頭をかりかりと掻き、ベイルがくすぐったそうに「ふにゃん、ゆーまぁ……」と呟きドルフの体を抱きしめた。
ドルフは僕を見て、な?という雰囲気の顔をした。
「あはは、なるべく早く済ませるよ。それじゃよろしくね」
僕は手を振るドルフに手をふり返し住居をあとにした。
僕は陽介のいる住居へと歩く。
陽介は確か黄色い葉っぱの木の下の、あったあそこだ。
「おーい雄馬」
「陽介、外にいたんだ。二人の様子が気になってさ」
さっき将冴から話を聞いた陽介が沈んだ様子だったのが気がかりだった。
いつも明るくしてるのは彼が意図してそうしていて、意外と内に溜め込むタイプなのかもしれない。
「特におかしなとこはないぜ、アリスは疲れたみたいで中で寝てる。俺はちょっと外の空気が吸いたくてさ」
陽介の視線の先には、キャラバンの人達が森で死んだ仲間の墓を作っている姿があった。
陽介の表情に影が落ちる。
「将冴の言ってたことが気になるの?」
「なんでわかるんだよ」
「らしくない表情してるから」
「雄馬には隠し事出来なさそうだなぁ……」
陽介は頭を掻くと、口を開いた。
「俺。将冴の話を聞いた瞬間、何故かしっくりきちまったんだ」
キャラバンの人達が亡骸を穴に入れて、土を被せ始めた。
「納得せざるを得なかった。まるで今まで何度もプレイヤーが死ぬのを見てきたみたいに」
ささやかな葬儀を遠目に眺めながら、陽介は自身に問うようにそう呟く。
伊織はそれを見送ってきた、誰にも相談すらできずに。
僕は確信を持った。
伊織が教会を避けた本当の理由は、プレイヤー達を見送り続けることが耐えられなかったからだ。
講堂を見回す不安げな顔。
秘密基地にあったギターの音が狂ってなかった事。
そのギターの演奏を聴いた時の伊織の涙。
「このまま終わりになんて出来ない」
「どうしたんだ?」
「僕らが伊織やみんなを助けるんだ、このままになんてしておけない」
僕の言葉に陽介はポカンと口を開けて僕を見つめ、笑い出した。
「なんだよう、僕は真剣なんだぜ?」
「いや、悪い悪い。俺さ、ずっと自分のことばかり考えて、お先真っ暗だー!なんて悲観するしかできなかったんだ。なのにお前はみんなを助けるだなんて、こんな時にそんな事言い出すなんて」
そう言うと陽介はきりっとした顔をした、憂いはどこかに消えた、そんな表情だ。
「でも雄馬が言うとほんとにやっちまいそうだよな。今までだってアバターの力なしで誰よりも活躍してきたんだ」
陽介は僕の肩を拳骨で軽く叩き、笑顔を見せた。
「すげえ奴だよお前は、一緒にいるといつも勇気が湧いてくる。物語に出てくる勇者みたいだ」
「そんなこと言われるとなんだか恥ずかしいよ」
顔が熱くなってきて僕は俯く。
「まぁ俺たちの補助あっての活躍だし、頼りないよちよち歩きのひよこ勇者ってとこだけどな」
「褒めたいのか貶したいのかどっちだよう」
「お前がやるってんなら、俺も本気出すって事だよ。俺達で伊織もプレイヤー達もみんなも助けようぜ」
陽介の言葉に僕は笑顔でうなづき、彼とグータッチした。
いつの間にかキャラバンの人達の葬儀は終わり、みんなそれぞれの生活に戻っていく。
僕らも前を向いて進んでいこう。
不安や困難とは戦っていくしかない、その先に大切な人の笑顔があると信じて。




