489回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 288:荒野で生きる者たち(14)
「ふぅ」
ひとしきり気が済むまで撫で倒し、僕は額の汗を拭い二人を見た。
「ひっ……、あ……ぉお……」
ベイルはだらしなく舌を出し、涎を垂らして幸せそうな顔で気絶している。
「はぁ……は……ッ、なんで撫でられるだけで、こんな……はひぃ」
ドルフはよがりすぎてへとへとになっていた。
気を失ってないあたりさすがのタフネスだ。
今ならベイルも気を失ってるし、彼にいろいろ聞けるかもしれない。
「ねぇドルフ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「ドルフって隷従騎士の処置はされてないんだよね?」
「ああ、魔王軍所属のやつがここに潜入しててな。そいつと入れ替わる形で教会にいた」
「目的は僕と会って、地上に連れて行くこと」
「……そうだ」
「ドルフの力ならいつでもそれは出来たよね、なぜしなかったの?」
ドルフは口籠もり、しばらく思案した後体を起こした。
「お前に新しい関係ができてて、それをお前が大切にしてて、守ろうとしてた」
彼は振り返りベイルを見て目を細め、僕の顔を見つめる。
「そんな時にお前を無理矢理連れ帰るなんて俺には出来ねぇ。そんだけの話だ」
言い終わると彼は苦笑いした、とても優しい目をしている。
「あのさ、こんなこと言いにくいんだけど。人違いとかじゃない?」
「お前はここに連れてこられた時に記憶が消されたらしい、認めにくいのはわかる。だけどお前は契約者にしか使えない琥珀のダガーが使える。その山刀もお前が以前使っていた物だ。お前の大切な人がお前の為に特注で作った物だからな。それに俺がお前の事見間違うはずねぇんだ」
「最後のはどうして?」
「そりゃお前、俺がお前のこと……」
ドルフは突然顔を赤くしてごにょごにょと言葉を濁す。
「ごめん聞こえなかった、もう一度言ってくれる?」
「う、うるせえ!仲良しだったんだよ、そんだけだ!!」
吠えるようにそう言ってドルフは顔を両手で隠した。なんだかかわいい。
「そっか、良かった。僕の知らない僕ってドルフとも仲良かったんだね」
「俺だけじゃねえぞ、お前を待ってる奴はたくさんいる。だけどもう少し待つくらいみんな我慢してくれるだろうよ、再会するなら笑顔で会いたいだろうしな」
「うん、待ってくれてる人達の期待に応えられるかはわからないけど。全部終わったら地上に行くよ。だからそれまで力を貸して」
「おう、任せろ。とことん付き合ってやるよ」
僕らは互いの目を見つめ合い握手を交わした。
ドルフの肉球は意外にもぷにぷにしていて、暖かくて気持ちよかった。




