484回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 283:荒野で生きる者たち(9)
「もうすぐ着くぞ」
鬱蒼とした森の闇の中を歩きながら将冴が言った。
「ほんとかよ、随分おっかねぇ場所だぜ」
ベイルが僕の背中に張り付きながら言った。
確かに暗い闇とじめじめとした湿度、草まみれで歩きにくい地面、時折聞こえる動物達の喧騒がどことなくおどろおどろしい。
「手繋ごっか?」
「よせやい、みんな見てるぜ」
ベイルは顔を赤らめ僕の上着の裾を掴んで身を寄せた。
「お前はその、なんだ。妙に仲がいいな」
ドルフが複雑そうな顔でこちらを見る。
「雄馬と俺はつがいだからな」
「は?」
ドルフを牽制する様にいうベイル、そんなベイルにドルフは鬼の様な形相をした。
その気迫にあてられたのか、周囲の鳥達が一斉に叫び声を上げて逃げ出す。
ベイルは体を震え上がらせながらもドルフから目を逸らさず「へへんっ」と挑戦的な笑顔をキープしている。
「まぁまぁ二人とも、どうか穏便に」
「雄馬が言うなら仕方ねぇけどよぉ、納得行かねえ」
「ははは」
不機嫌そうにするドルフに僕は苦笑いした。
その時、森の奥の方からゴボゴボと泡立つ様な音がした。
「どうかしたのか?」
「なんか変な音がして」
ゴボゴボと音を立てながら、助けてと溺れる様な声がする。
みんなの様子を見る限り聴こえているのは僕だけの様だ。
僕はポーチから琥珀のダガーを引き抜き辺りを伺う。
僕の様子を見ていたドルフが目つきを変えて、周辺の匂いを嗅ぎ始めた。
風が吹き、彼の動きが止まる。
「人間の血の匂いだ」
「将冴、少し寄り道してもいいかな。向こうで誰か怪我してるみたいなんだ」
僕はドルフが匂いを嗅ぎ当てた方法を指さし、みんなでそちらに向かった。
「こいつは酷いな……」
そこには顔を布で覆った人間五人の死体があった。どれも腹部を切り裂かれ内臓を掻き出された跡がある。
「この服装キャラバンの人だ、何かに襲われたのか?」
僕はその場の状況に違和感を覚えた。
まずどの死体も出血が少ない、殺された後ここに集められてる。
野生動物に襲われたのだとしたら、食べやすく栄養豊富な内臓を残しておくとは考えにくい。
それにこの状態、わざわざ臓器を裂いて、内臓の中の何かを探している様にも見える。
視線を上げて周囲を見ると、木の高所の枝に上半身を突き刺し、下半身を下に置いてあったり、内臓でラインを引く様に地面にばら撒いてある。
死体を使ってそれを見た者の視線や行動を誘導している様な。
動物にしてはやけに人間臭い、殺人鬼のような思考。
もしこれが作為的な物で、僕らの行動が誘導されているとしたら、相手の狙いは。
なんだか嫌な予感がして視線を移すと、死体に気を取られている陽介の向こう、闇の中に赤い目の光りが見えた。
「陽介!伏せて!!」
「なんだ?」
反応が遅れた陽介にベイルが飛びかかり伏せさせ、さっきまで陽介が立っていた場所を青い化け物の剛腕が振り抜き、木々をへし折り、大木に大きな爪痕を残した。
闇の中から姿を表した怪物、その姿は様々な生き物が溶けて不規則に混ざり合い、捩れ歪んだ異様な物だった。




