483回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 282:荒野で生きる者たち(8)
渓谷に差し掛かった僕らは、地震のような音と共に姿を表した存在に絶句した。
全長100mはあろうかという巨大な人型モンスター二体が戦っていたのだ。
体と体がぶつかり合う音は、生き物というよりも自然現象の音に近い。
あげる雄叫びは空を貫く稲妻の様だ。
僕らは超巨大なモンスターの戦いに巻き込まれないよう、三班に別れ物陰に隠れて移動することになった。
今度は僕と将冴、ドルフ、陽介アリスベイルの組み合わせだ。
二班が先行する中、巨大モンスターの注意がどちらかに逸れそうになった場合、ドルフが矢で気を引き、その間に通り抜ける作戦だ。
ドルフが一番危険な役回りだが、彼は自身の絶技で逃げ切れるからと自ら名乗り出た。
心配する僕に彼は「大丈夫だ、お前ほど無茶しねぇからよ」と優しく笑って返した。
そうは言っても絶技を使いすぎると心がなくなってしまうのだ。
なるべくドルフに負担をかけたくない。
将冴と進みながら、僕は彼に聞いてみた。
「将冴の力であのモンスター倒せたりしない?」
「俺の力は目立つ、余計な敵を呼びかねない。それに以前君が指摘したように、俺の魔法は貫通力がない、恐らく泥試合になる。この先どうなるかわからない以上なるべく力は温存するべきだ」
彼は巨大モンスターに注意を払い、物陰を移動しながら淡々と言った。
「そうか……、せめて僕がアバター化できたら、みんなに負担をかけなくても済むのにな」
僕の言葉に将冴は押し黙り、しばらくしてから彼はため息をつくように口を開いた。
「君は不誠実な男だな」
「どうして?」
将冴にそう言われるような事したっけ。
「君は恐怖を感じない様にしているだろう」
さっきの事か。
たしかに将冴の力を見て、無事にやり過ごせるか不安はあったけれど。
「必要な事ならやるしかないじゃないか」
「自分の気持ちに誠実になれない、だから他人の気持ちに気づくこともできないんだ」
「他人の気持ちって?」
「伊織はお前の事を想って苦しんでいた、気づいていたか?」
え?なんでこんな時に。
というか伊織が僕の事を想ってたって?
「伊織が?そんなはずないよ」
将冴は振り返り、少し苛立った様な顔をした。
「それみたことか、自分を大切にしないものに他人を大切になどできるわけがない」
いやいや、待てよ。いきなりそんなこと言われたって。
「僕らは友達で……、それ以上の関係なんて」
否定するつもりか、自分自身だけじゃなく伊織の気持ちまで。将冴の背中は僕にそう問いかける様だった。
「俺は伊織が好きだ、お前もあいつにどう向き合うのかはっきり決めろ。俺には勝負なんかよりその事の方が重要だ」
将冴が伊織の事を好きだって?
もしかして彼がミッションの時に僕を襲った理由はそれだったのか。
伊織が僕の事を好きなのに、それに気づかない僕に腹を立てたって事なのか。
「わからない、すぐに答えが出せそうにないよ」
伊織が追い詰められた様子だったのも、砕け散ってしまったのも僕のせいだったかもしれないって事なのか?
思わぬ告白に戸惑いながらも、僕らはなんとか無事に渓谷を抜けることに成功した。




