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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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48回目 冬のセイラム

白、透明な、空から降る雪の色。

雪の源に手を伸ばす少女を包み込む温もり、

姿は消えてしまってもずっと少女の傍にいてくれる人。

「心配してくれてるの?

 君は変わらないね私にはそんな気づかいはいらないのに。

 それよりまだ気は変わらないの、君のための器はもう用意してあるよ」

彼女は返事をする代わりに少女の首に巻かれたチョーカーの鈴を鳴らす。

「そう、ならいい。時間ならいくらでもある。

 でも不思議だね、まるで幽霊みたいなのに君は生きてる」

少女はそっと風が頭を撫でるのを感じた。

彼女がいつもそうしてくれたように、

その本心を隠す時にいつもそうしたように。

会おうと思えばこうしていつでも会えるのに、

姿が見えないだけでまるで取り残されてしまったようだと冬花とうかは思った。

雪が街を染めていく、地平線が流転し空は暗闇に閉ざされていった。


冬花は戸籍上存在しない人間、ある組織によって物と管理される身の上だった。

幼いころに事故によって死亡した彼女は死体となった後、

ある器に脳を臓器として移植されその生命を継続した。

生体アンドロイド、それは彼女自身が開発した有機物で構成された人工の肉体だった。

彼女はその稀有な才能から謀殺され、

組織によって所有されていた物のパーツとして組み込まれ、

隔絶された場所で管理され、研究開発を続けさせられていた。


彼女は今アメリカの片田舎ダンバースという街で暮らしていた。

その街ではある問題があった。

今は情報コントロールにより都市伝説の類として扱われていたが、

人間が気体となり消滅する奇病が発生し始めていた。


冬花が首の鈴を鳴らしながら街を買い出しに歩いているだけでちらほらと話を聞く。

彼女は指折り数を数えるとため息をつく。

彼女の仕事は気体化した人物の器となるアンドロイドを作成する事、

後は組織が処理を行うので彼女の管轄ではないのだが、

冬花はあまり仕事するのが好きではなかった。

前は一緒に暮らしていた女性が彼女のモチベーションを支えてくれていたのだけど、

今は作業するときは一人だ。


人間の気化現象について疫学調査官の陽野香という女性が街に訪れ、

冬花は右往左往していた彼女と行きずりで知り合う事に。

香の調査で気化現象が細菌やウィルスによる伝染するものでも、

遺伝的な病でもないとわかり、

なんとなしに嫌な予感がした冬花が知人のつてを使って調べると、

ダンバースが近いうちにガス事故という名目で焼き尽くされる事が決定されていることを知る。


街の住民達の間に人間の気化現象には魔女が関係しているという噂が流れだし、

深夜に疑われる人物を捕えて殺害する人間狩りが発生し始める。

ターゲットになるのは冬花の作った生体アンドロイド達、

つまり一度気化した人間が中心に選ばれているようだった。


州軍に街が包囲され、冬花達は脱出を試みオスプレイに忍び込む。

冬花「香スマホで撮影、youtubeにアップよろしく」

香「ど、どうするつもり?」

冬花「アクセス1件で日本円にして0.1円、億万長者には10憶アクセス目標」

冬花は香に親指を立てて見せると流れるような手つきでエンジンを始動する。

香「冬花ちゃん操縦の仕方わかるの?」

冬花「任せて、映画で見たから大体わかる……」

オスプレイが浮上し始め駆け寄ってきた兵士たちの銃撃が機体を襲う。

香「飛んでる、冬花ちゃん別の意味で凄いね……」

冬花「ジャーン、無免許でオスプレイ運転してみたー」

香「冬花ちゃん手とか足とか震えてない?」

冬花「もうどう操作したらいいか全然わからなくて、これが武者震いというやつなのね……」

香「それ全然違うと思う!いやぁああああ!!」


人間の気化現象は人類の進化によるものだった、

旧人類としての遺伝子の寿命による変性。

種族としての共時性が発生する前にダンバースごと焼き払ってしまうつもりだという事が判明する。

彼らはその進化後の人類を滅ぼされるべき魔女と命名していた。

ダンバースの旧名はセイラム、

かつてセイラム魔女裁判による多数の被害者を生み出した場所でまた魔女狩りが行われようとしていた。


冬花とは別の開発者の作った人体強化生体サイボーグによる強襲を受け、

冬花は生体アンドロイド特有の脆弱性を逆手にそれを撃退、

街に仕掛けられた爆弾の起動プログラムの書き換えに成功する。


香が今はなんとかなってもまたすぐに再開されてしまうのではと不安がるが、

それに関しては問題ないと冬花がほほ笑む。

香は自らのいる基地にいた人間が全て気化して消滅していることに気づく。

香「まさこれ、冬花ちゃんがやったの?」

冬花はそれには答えず、ただ彼女の傍に現れた見えない誰かの頬に触れて目を細める。

冷たく凍った夜の闇の中で、香は冬花が月の光に触れる女王のように見えた。


ダンバースに戻った香は詳しい話を聞くために冬花の元を訪れたが、

そこにはもう彼女の姿はなく。

香が報告書を書き上げる頃には街はすっかり平穏さを取り戻していた。

youtubeにアップした冬花と自分の動画を眺めながら香は微笑む。


自分にとって理解できないものに対して狂っていると言ってしまう事が罪なのだ、

香はそう思った。

だから彼女は今でも冬花を信じている、

彼女は今でも香にとって少しだけ変わった友人のまま心の中にいる。

「いつか、また」

彼女が飛行機の外のダンバースの街並みに向かってそういうと、飛行機は滑走をはじめた。


香を乗せて飛び立つ飛行機を見送る人影が二つ。

「気が向いたら会ってあげるよ」

少女はそう言い残し口元に笑みを浮かべるとその場をあとにした。

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