表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
479/873

473回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 272:空に輝く虹のように(8)

「ヒッひひゃははは!おぶッ!!」


 高笑いするヤスを将冴の爆発魔法が吹き飛ばす。

 僕はほのかに駆け寄り彼女の傷を見た。

 パッと見ただけでも内臓をいくつか損傷している、危険な状態だ。


「ゆう……ま、くん」


「喋っちゃダメだ、なんとかする、絶対に助けるから」


「いいんです……自分でわかっちゃう、だから私の、言えなかった気持ちだけ……伝えたくて」


「ほのか、諦めないで。なにか、何か方法が」


 動転する僕の手を、ほのかは優しく握り、穏やかな笑顔をして僕を見つめた。


「好きです、雄馬くん。世界で一番君が好き……」


「ほのか……」


「ああ、言えた。私にも勇気が出せた……」


 満足げにそう言いながら、ほのかの体から力が抜けていく。

 出血と共に、ほのかの体が急速に冷たくなっていた。


「雨降りばかりだった私の毎日に、虹を連れてきてくれてありがとう」


 そう言ってほのかの手が地面に落ち、彼女は意識を失った。


---


「死なない、ミッションじゃ祓魔師は死なないはずだ」


 将冴は雄馬とほのかのやりとりを見て、現状を否定するように呟く。


「あれれぇ知らないんですか?」


 倒れたままケラケラと将冴を嘲笑うようにヤスは言う。


「ミッション中HPを失った祓魔師は、体に傷を負って死ぬんだ」


「嘘をつくな!」


 将冴は杖をヤスに向ける。


「どういう仕組みか祓魔師達から死んだ祓魔師の記憶が消えるから、誰も死んでないように思えてるだけですよお。鍛治職は死んだ祓魔師の事を言わないように口止めされてるんです」


 ヤスはニヤニヤと将冴の反応を楽しみながら言葉を口にして、彼の表情が悔恨に歪むのをみて醜く笑う。


「ひゃはっアハハハッ」


「笑うな外道が!」


「お前が、お前が俺に指図するなァッッ!」


 ヤスは突然怒り狂う。


「全部お前のせいだ、お前が悪いんだ、お前がお前がお前が俺のぉお!!」


 ヤスの体が激しく痙攣し、彼の体を突き破って赤い霧が噴出し、それがヤスの体を持ち上げ、彼の体に霧の魔獣の外骨格を与えた。


「俺は強い!ご主人様に力を貰ったんだ!お前なんかより強い力を」


 将冴はヤスの腕輪についた魔石が紫色に怪しく輝くのを見た。


「ジャンキーがイキがるな!」


 将冴はヤスに向かい爆発魔法を放つ。

 しかし霧の魔獣の巨腕で防がれた。


「トライバースト!」


 すかさず腕を狙い3連爆撃を行い、巨腕を消し飛ばすが、霧散した霧が魔石の輝きで集まりすぐに再生してしまう。


 将冴がどんな大火力で攻めても、石の力で再生されてヤスには届かない。


「ずっと見てきましたからねぇ、あんたの弱点は手にとるようにわかるんですよ。ひひひ」


 ヤスは消しとばされた巨腕を再生させながら将冴を掴んで握りしめる。


「こんな、馬鹿な……」


 将冴はみるみる減っていく自らのHPゲージを見て焦る。

 突然ヤスの動きが止まった。


 彼の顔を見ると何かに怯えているようだ。

 その視線の先には雄馬がいた。

 なんだか様子がおかしい。


 ゆっくりと立ち上がった雄馬がこちらを見る。

 琥珀のダガーを握る手から黒斑が広がり雄馬の体を包み込み、黒い影のようになった雄馬が琥珀のダガーをヤスに向けた。


 ヤスは痙攣し苦みだして将冴を落とした。


 琥珀のダガーが鼓動するように禍々しい赤光で明滅し、じわりとダガーから血のような液体が滲み出して地面にぼたぼたと落ちていく。

 将冴は本能的に何が起きているのかを理解し、恐怖した。


「命を吸い上げてるのか?」


 ヤスは声にならない悲鳴をあげ、霧の魔獣を消失し、彼の体がどんどん干からびていく。

 命乞いをするように、ヤスは雄馬に手を伸ばす。

 雄馬は意識がないのか、そのままヤスを干からびたミイラにするまで命を吸い取り、琥珀のダガーを握ったまま脱力した。


 彼を中心に、冷たい波動が広がった。

 植物は瞬時に枯れ果て、建物が風化したかのように崩れはじめ、将冴の体からも命を吸い始めた。


「このままでは……」


 将冴は立ち上がり、逆風のような波動に阻まれながら雄馬に近づく。

 近づくほど奪われる生命力、しかし将冴は突き進み雄馬の肩を掴む。


「やめろ!もう終わったんだ!お前の仲間を巻き込むな!!」


 将冴の耳に雄馬がぶつぶつと呟いている声が聞こえた。

 雄馬は小さな声で僕の大切な人はみんな死んでしまうと呟き泣いていた。


 琥珀のダガーの赤い明滅と共に鼓動が聞こえた。

 将冴は力尽き、膝をついた。


「頼む、やめてくれ。みんなを、陽介を殺さないでくれ……」


 将冴の嘆願も虚しく、光すらも死に絶え暗い闇が広がっていく。

 慟哭が支配する暴力的な絶対静寂の空間の中に、鈴のついたメイスを携えた黒騎士がやって来た。

 黒騎士は雄馬に近づき、彼をじっと見つめる。


「ごめんなさい、雄馬君。私にできるのはこれくらいしかないの」


 黒騎士がそう言って鈴を鳴らし、彼女がメイスを振り上げると、全てが暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ