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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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472回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 271:空に輝く虹のように(7)

「あれ?」


 もうダメかと思ったが、全く熱くない。

 目を開くと煌めく気流が僕の周囲を竜巻のように取り囲んでいた。


 気流はそのまま爆炎を巻き込み、上方にそれを放出して消えた。

 僕の視界の先には柄を僕に向けて構えたほのかの姿があった。

 彼女は僕の無事を確認するとほっと胸を撫で下ろす。


「ありがとうほのか、助かった!」


 そう言うと僕は後ろに跳躍し、琥珀のダガーをポーチから引き抜いて構えた。


 琥珀のダガーを見るとそれは再び光を灯していた。

 どうやら僕の意思で使えるみたいだ。

 伊織の武器は全て使い切ってしまった、今はこれだけが頼りだ。


「どうしてこんな事するんですか」


 口火を切ったのは意外なことにほのかだった。

 彼女は将冴に柄を向け、ストームウィップを展開した。


「邪魔だからさ、今の君みたいにね」


 そう言うと、将冴は複数個の火球を出現させほのかに放った。

 ほのかはストームウィップで迎撃し、残った二発は僕が地面から木を生やして防ぐ。


「きゃっ!?」


 将冴の攻撃に気を取られている間に、ほのかの背後に近づいていたヤスが、彼女を羽交締めにし、柄を奪い取った。


「ほのか!」


「おっと、ヤスを攻撃するなよ?その時は俺が彼女を消し炭にすることになる」


 武器を奪われアバター化のとけたほのかに、将冴の攻撃が命中すれば、彼女の命はない。

 僕は唇を噛み将冴に意識を集中した。


「君を始末したら彼女は解放するよ。どうせ死んでもまたどこかに転移するんじゃないか?大人しく死んでくれるよな?」


 そう言って将冴は僕に火球を放った。

 僕は将冴を取り囲むように植物で壁を作り、その影に隠れながら走った。


 将冴は舌打ちする。


「雑魚が小賢しい真似してんじゃねぇ!」


 そう言うと将冴は、足元に火球を生み出し空中に飛ぶ。

 それを見て僕は咄嗟に僕の近辺に森を出現させる。


 将冴は叫ぶ。


「ナパームデス!!」


 森が一斉に燃え上がり、ナパーム弾の爆撃を喰らったように爆発して消し飛んだ。


 直撃を避け、自分の前に作っていた壁で事なきを得たが、デタラメな火力だ。

 巻き込まないようにほのかから離れて戦わなきゃ。


 将冴は滞空しながら僕の姿を確認すると、足元の火球を爆発させ、爆風でこちらに向かい高速で落下してきた。


 将冴は僕に向けた足に火球を生み出し、超高速の蹴りを放つ。

 僕は植物の壁を生み出すが、将冴はそれを蹴り火球を爆発させて吹き飛ばし、爆炎を纏いながら必殺の蹴りを繰り出してきた。


「ゴミは焼かれて灰になれ!」


 将冴は叫びながら蹴りを放ち、強烈な爆風爆音とともに地面が抉れ吹き飛ぶ。


 将冴が蹴ったのは一瞬視界を奪った間に、植物で生み出した僕のコピーだ。


 技の後の硬直を狙って木の槍を放つ。

 しかし周囲に爆風の防壁を張られて吹き飛ばされてしまった。

 将冴は僕の方を見ると凶悪な形相をした。


「糞にたかる蝿がぁあああ!!」


 将冴は見境なく全方位に小さな火球を無数に放ちながら近づいてくる。


 直撃を受けないように植物で迎撃してながら走ると、将冴は歩速を早めながら、杖をこちらに向けて強力な火球を連打しはじめる。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 火球に木の槍をぶつけて、爆炎で巻き込む形で放たれた火球を相殺しながら思う。


 こいつは可哀想な奴だ。

 きっとずっと誰にも心を開けず生きてきたんだろう。

 こうして生きていかざるえなかった、だからこんなに歪んでしまったんだ。


「そんな目で俺を見るな!」


 そう言うと将冴は杖を上にかざし、巨大な火球を作り始める。


 植物じゃ防げない規模だ。

 だけどこのレベルのスキルならキャスト時間がコンマ数秒遅くなる。


 将冴がキャストしている間に仕込みを済ませ、将冴が火球を放つタイミングに合わせダガーを起動する。


 僕は自身の足元から木の柱を突き出し、将冴の背後に飛んで将冴の放った魔法を交わす。

 爆炎が地面を消し飛ばす中、無数の木の枝を球状に展開し、将冴を包みこむ。


「なにっ!?」


 着地すると僕は将冴に向けて左手をかざして、握る仕草と共に木の枝の牢獄を狭めていく。


「こんなものっ!!」


 焦った将冴が爆発魔法で檻を吹き飛ばそうとするが、枝はびくともしない。


「無駄だよ、最硬の木リグナムバイタだ。乾燥したこれは鉄より硬くなる。自爆を避けた火力じゃ破れない」


「うるさい!クソ雑魚能力でこの俺が……ッ」


 爆発で抵抗しながらも、なすすべなく追い詰められ、将冴の顔が青ざめ勢いが失せていく。


「殺される人がどんな気分で死んでいくか、身を持って思い知るといい」


 僕はそう言って手を握り、一気に檻を小さくし、将冴の体を締め上げ潰していく。

 

「ヒッ、ぎっ……ああっ!?」


 杖を落とし、将冴は必死にもがくがもうどうしようもできない。

 捕食者に捕らえられた非捕食者のように、将冴には死を受け入れるしか選択肢はなかった。


「嫌だ……うぁああっ、嫌だぁ!!やめろ!やめて……殺さないでくれ!!」


 将冴は現実味を帯びて突きつけられた死の重圧に潰され、顔を絶望に歪めて泣き叫ぶ。

 メキメキという音をさせ、木の枝が完全に将冴を飲み込み、静寂がおとづれた。


 僕は将冴を飲み込んだ檻を地面に下ろして、包んでいた木を解く。

 中で体を小さくして、泣きじゃくる将冴の姿があった。


「なんで……」


 なんで殺さなかったのか、そう言いたいんだろう。

 僕は小さな子に言い聞かせるような顔をして答える。


「僕に君を裁く権利なんてないから」


「情けを、お前如きが俺に?」


 将冴は近くに落ちていた杖を拾いアバター化すると、僕に杖を向けて睨みつけた。


「馬鹿にするな!!」


「君の気が済まないならまた勝負しよう。誰も巻き込まないでくれるならいつでもいい」


「本気、なのか」


「うん、君の気が済むまで付き合うよ」


「どうして……」


「わかるんだよ、君の気持ち。少しだけだけど」


「俺は認めない!」


 そう叫んだのはヤスだった。


「ヤス、なんのつもりだ」


 ヤスがほのかの首を掴み持ち上げているのを見て、将冴が困惑する。


「そんな奴殺せばいい、死ねばいい、どいつもこいつも死ねばシねバァシシシシねばしネ死ネしね死ね死ね死んでぇえええ!!」


「やめろ!!」


 将冴と僕が同時にヤスに武器を向ける。

 しかし彼を止めるのが間に合わず、ほのかの体はヤスが放った岩の槍に貫かれ、ほのかは吐血した。


「ほのかぁあああああ!!」


 僕は絶叫した。


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