468回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 268:空に輝く虹のように(4)
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「痛……ッ」
ほのかが目を覚ますと、薄暗い大穴の底にいた。
落下した時のショックで気を失い、その間にアバター化が解け、彼女は足に傷を負ってしまっていた。
「早く戻らなきゃ……ストームウィップ!」
ほのかはストームウィップを繰り出し地面を叩いて飛ぼうとした。
しかし微かに体が浮き上がるだけで、すぐに落ちてしまう。
「あぐっううっ」
傷ついた足が着地の衝撃で痛み、彼女は足を抱えて地面に倒れ込んだ。
閉じ込められた地下に、地上から伝い落ちてくる黒い液体が溜まり、水かさを増していく。
このままでは溺れてしまう。
ほのかは怯えながら立ち上がり、痛む足を引き摺り黒い液体のない場所を目指して移動し始めた。
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「雄馬!離れろっ!!」
僕は陽介に襟を掴まれ投げ飛ばされた。
僕のいた場所に巨大蜘蛛の柱のような糸が放たれ、黒い液体になって飛散した。
「ギシャシャアァアアアアッ」
巨大蜘蛛は僕らを嘲笑うように鳴き声をあげる。
都市を濡らしていた黒い液体は、どうやら巨大蜘蛛の糸が変化したものだったらしい。
祓魔師達との戦闘が激化するほど、放たれた糸が液化し、ほのかのいる穴に流れ落ちていく。
ティタノマキアのルールの通りなら、アバター化で防ぐことができるのは体に対する損傷だけだ。
アバター化できるプレイヤーが死ぬことはないはずなのに、胸の奥で何かがほのかを助けろと叫んでいる。
「今は目の前のやつをどうにかしないと!」
陽介の召喚で放たれた無数の槍による攻撃に合わせて、即爆ナイフで巨大蜘蛛の動きを抑え、陽介の攻撃を命中させる。
「ぐぎゃあぁああ!!」
巨大蜘蛛が飛び上がり、建物の屋上伝いに移動した。
「少しでも穴から遠ざけないと……ッ!」
「待てよ雄馬!!」
陽介の制止を振り切り、僕はジェットパックを連続起動させる。建物の壁を蹴り、巨大蜘蛛の後を追跡。
巨大蜘蛛が穴から離れるように、即爆ナイフで牽制する。
もう大切な友達があんな事になるのは見たくない。
あんな事?
自分の咄嗟の思考に疑問を抱く。それと同時にノイズがかったイメージが脳裏によぎった。
短髪の女の子の恥ずかしそうな笑顔、そしてブルーノのような体格の、犬顔で鹿のような角のついた男の泣き顔。
「ぐっう……ッ!?」
頭痛と共にイメージは掻き消えた。
「今のはなんだったんだ?」
死角から風を切る音が近づき、ジェットパックを吹かせて宙返りすると、タッチの差で大蜘蛛の巨大な足が僕の足元にあった建物を突き崩した。
「ギチチッ」
「こいつ、笑ってるのか」
大蜘蛛はこちらの弱みを見抜いたぞというような顔をして、猛烈な速度でほのかの落ちた穴に向かい始めた。
「やらせるか!」
僕はジェットパックを吹かせる、最後の一回だったらしく加速が足りない。
「もっと速くッ!!」
僕は無意識にポーチから琥珀のダガーを引き抜き眼前にかざす。
そして琥珀のダガーは、僕の気持ちに呼応するように眩い閃光を放った。




