467回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 267:空に輝く虹のように(3)
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ミッションで訪れたのは石造の都市だった。
雨が降った後のように見える。
都市を濡らしているのは、微かな粘性を持つ、黒い液体だ。
「油のような、変な感触だ。なんだろこれ」
指先で触れてみても、ヌルヌルする何かだということ以外わからない。
物音も人気もない、なんだか不気味な場所だ。
バシャバシャと音を立てて誰かが走る音がする。
そちらを見ると、小さな子供が走り去っていくのが見えた。
僕らの死角を選んでいるかのように、物音をさせ、笑い声を上げながら走っていく。
「なんか気味が悪いなここ」
陽介が怖がりながらも、アリスを庇うように立つ。
今回のミッションはクリーチャーの討伐だ。
オブジェクトによって変質化した敵対生命体、モンスターと違い意思の疎通は不可能で、オブジェクトと同じ特性を持つ。
この街も既にクリーチャーのテリトリーの中であるため、混沌侵蝕の影響を受けているのかもしれない。
「クリーチャーってモンスターと違ってホラーな感じなのが嫌な感じだよな」
陽介がそう言っていると、死角から飛び出してきた子供がアリスに飛びかかり、陽介は彼女を庇う。
「なんだこいつッ」
動きを封じられた陽介に、次々と子供達が飛びかかり、彼に噛み付いた。
アバター化している彼に直接の傷はないが、青ざめ具合から急速にHPが失われているのはわかる。
「陽介!」
彼から子供達を引き離そうと近づこうとした瞬間、将冴が陽介に群がっていた子供達を爆発させ吹き飛ばした。
「子供に何やってんだ!」
「アホか君は、足元をよく見てみろ」
陽介に呆れ顔をしながら将冴は子供達がいた場所を杖で指し示す。
子供達がやって来た経路、そしてその足元の黒い液体に足跡がついていない。
子供達が笑い、その姿が揺らぎ、中型犬くらいのサイズの蜘蛛が姿を表した。
「じゃああれ全部蜘蛛?住民は?」
ケタケタケタと笑う声が四方からする。
いつの間にか無数の子供達が僕らを取り囲み笑っていた。
夕日に照らされ今まで見えなかった赤色のものが見え始める。
住民達の細切れの死体と、無数に立ち並ぶ巨大な赤い水晶の柱。
異様な光景が僕らの目の前にあった。




