465回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 265:空に輝く虹のように(1)
「あいたっ」
りんご剥いてて指を切ってしまった。
「大丈夫かよ、ちょっと見せてみ」
そう言ったベイルに指を見せると、彼は流れ落ちる血を舐め取り、指を口に含んで吸い始めた。
なんだかえっちな気分になっちゃう。
「よし、血は止まったな」
そう言ってベイルは僕の指に軟膏を塗ってくれた。
「どうかしたか?じっと見て」
「えっあっなんでもないよ、はいベイル、あーんして」
僕は一口大にしたリンゴを、フォークで刺してベイルに差し出した。
「なんだよ、自分で食えるよ」
ベイルは頬を掻きながら恥ずかしがる、そんな彼が可愛くてにやけてしまう。
「この方が美味しいよ」
「ホントかよ、まぁ雄馬がそう言うなら」
そう言ってベイルは口をあんぐり開け、僕はリンゴを中に入れた。
ベイルは口を閉じ、もぐもぐと咀嚼する。
「どう?」
ベイルは僕の顔をチラッと見て、恥ずかしそうに目を背ける。
「……うまい」
そういうと彼は顔を赤くした。
「でしょー?」
僕が満足げに笑顔になると、彼は突然僕を抱きしめてきた。
ベイルの匂いがする、こうして抱きしめられてると不思議と落ち着く。
「うっし充電完了!」
そういうと彼はにひひと笑う。
彼の笑顔を見ると僕も嬉しくなる。
そうこうしていると時間になり、いつもの様にラングレンがベイルを呼びに来た。
ベイルを見送り、僕も着替えを済ませて部屋を出た。
扉の前の通路で、壁にもたれかかるようにして伊織が立っていた。
「どうしたの伊織」
「たまたま通りかかったから、今日はあんたと一緒に行こうかと思って」
「そっか、途中購買に寄ってもいい?」
「うん」
なんだか今日の伊織は様子が違うみたいだ。
「なにかあった?」
「ん?どうして?」
「元気ないみたいだから」
伊織は苦笑して、小さな声でこういう時だけ勘がいいんだからとつぶやく。
「どういう事?」
伊織は僕に指差しながら近づき、じっと目を見た。
「こっちの世界じゃあんたは一人ぼっちじゃないの、だからもっと自分を大事にしなさい」
たしかにベイルの件もある、それにみんなも僕の事を大切に思ってくれてる。
自分を大切に思う人達を悲しませることはいけない事だ。
「無茶はしない、約束するよ」
「よろしい、それじゃ私はここで離脱するから」
「ほえ?」
伊織はあっけに取られる僕を尻目に、僕の後方に歩き、後ろの方にいた誰かの肩を叩き「がんばって」と言い残して去っていった。
振り返るとそこにはほのかがいた。
彼女もなんだかいつもと様子が違う、はにかみ笑顔で、スカートを指先で触りながら僕を見ている。
「雄馬くん、少しお話良いですか?」
「う、うん」
伊織もほのかも、今日はどうしちゃったんだろう?




