462回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 262:ベイルの力、裏切りの代償
落ち着いた僕らは、ベイルの快気を知らせに秘密基地に向かった。
「誰もいないか」
そう言えばここならオブジェクトの監視がないんだよな、人もいないしちょうどいいかもしれない。
「ねぇベイル、この間戦った時特別な力、みたいなもの使った?」
「ああ、使ったぜ。絶技の事だろ?」
「絶技?」
ベイルの説明では、絶技とはモンスターの中に時々使えるようになるものが出る特殊な技のようなものらしい。
彼もラングレンから自覚のなかったその力を指摘され、奴隷労働の後に追加でしごかれていたという。
「それで初日からあんなにヘロヘロになってたんだね」
「今はちったあマシにはなったけど、最初の頃は流石にキツかった」
「ベイルはその絶技で何ができるの?」
よく聞いてくれましたと言わんばかりに、ベイルはにんまりとした。
「見たいか?」
僕がうなづくと、ベイルはしょうがねぇなぁとわざとらしく言うと、少し身構えその場でジャンプした。
黒い粒子を微かに残して、彼は空中で一回転し、天井に逆さまの状態で立った。
腕を組みどーよ?とドヤ顔をして見せる。
「わお、忍者みたいですごいね」
「へへへっ」
鼻を指で擦り、ベイルはふわりと降りてきた。
「こんなこともできるぞ」
そういって彼は道すがら買ってきたフルーツ牛乳を空中でひっくり返す。
「うわっ、えっ?」
溢れる!と思ったら液体は少し瓶から頭を出した程度で空中で静止した。
ベイルがその状態で瓶を横に動かすと、液体が空中で横に広がり、その場に止まった。
ベイルはそれをペロペロと舐めとる。
「おっ雄馬のオススメのこれ美味いな」
重力操作?いやもしかすると。
「物体の加速度を操れるの?」
ベイルはヒュウと口笛を鳴らし、正解と言った。
「勘がいいな」
「あの時の戦い方見てたらなんとなくね」
相手に蹴りを入れながら空中に上がる、エリアルレイヴみたいな事ができたのも加速度の操作のためのようだ。
「いつから使えるようになったの?」
「前からなんかやけに早く動ける時はあったんだけど、ラングレンが仕事中にあれこれ指示してきた事やってたらだんだん幅が広がった感じだなぁ。あと雄馬みたいに戦えたらかっこいいなって思ってたらいい感じに使えるようになったぜ」
「ベイル可愛いやつ!」
僕はベイルの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「やめろってばよぉ、んふぅ」
ベイルは満更でもない顔で尻尾をパタパタさせた。
ラングレンと特訓してたなら、この秘密基地のように監視の目から逃れられる空間が他にもあるのかもしれない、もしくはオブジェクトかなにかで空間的に偽装してるのかも。
物体の加速度操作かぁ、もしかしてあんなこともできたりして。
「ベイル、試してみて欲しいことがあるんだ」
僕は秘密基地の壁に厚さ2cmほどの鉄板を立てかけ、中心に丸を書いた。
「ここに指で弾いた小石をぶつけてみて欲しいんだけど」
「加速度を上げて、だよな。わかった」
ベイルはそういうと僕が手渡した小石を指に構える。
彼の指のあたりから黒い粒子がキラキラと放出され始めた。
キュバッ!
弾き出された小石は聞いたことのない音で飛び、鉄板を貫き壁に小さな穴を開けた。
「「ゲェーッ!?」」
僕らは同時に驚きの声をあげる。
鉄板の穴の周囲は赤熱していて、まるでビームか何かで貫かれたような状態だった。
これ思いの外ヤバい能力なのでは……。
ラングレンも使えるのバレたらまずいって言ってたしなぁ……。
「ベイル、この力のこと知ってるの他に誰かいる?」
「いや、お前とラングレンだけ」
「教会側に知られたら何されるかわからないし、無闇に使わないようにしない?」
「お、おう」
ベイルは目を丸くしながら何度もうなづく。
「雄馬こんなとこにいた!」
「伊織、それにみんな」
秘密基地に伊織達が入ってきた。
「なんか焦げ臭くね?」
「なぁーっ!?私の鉄板に大穴が……いやちょうどいいサイズかこれ。それはともかく雄馬ぁ!私達に一言もなくいなくなるたぁどういう了見だ!」
うぉ、マジおこ伊織だ。
語尾が江戸っ子みたいになってる。
「酷いです雄馬くん、私祝勝会楽しみにしてたのに」
ほのかはよよよと目尻にハンカチを当てた。泣かせてしまった!
「あわわ、ごめん、ごめんよ」
ほのかは慌てる僕を上目遣いで見ると、舌をペロッと出した。
「冗談です」
「ドッキリ大成功」
アリスが大きな看板を手早くインベントリから取り出し、うさぎのロビンがよろよろとそれを掲げる。
四人はイェーイ!と叫んでハイタッチした。
「なんだよう、僕のいない間にずいぶん仲良くなってるじゃんか」
「へっへーいいだろ、あの後喫茶店で話が弾んじゃってさ」
「喫茶店?祝勝会は?」
「せっかくなら豪勢なのがいいってみんなで話し合って決めたのよねー」
四人はまた同時に「ねーっ!」と息ぴったりで言った。にこにこ顔である。
いやちょっと待てよ嫌な予感がするんですが。
「もしやこの流れは」
僕がたじろぎながら言うと、陽介が僕の右肩をバシンと叩いて握りしめる。
「そう、晴れある今日という日の締めくくりは」
さらにバシンと僕の左肩を伊織が叩いて握る。
「あんたの双肩にかかっている」
二人の笑顔の裏の逃がさんぞという気迫と圧力がすごい!
助けを求めてほのかを見ると、彼女は柔らかい笑顔で口を開く。
「雄馬くんがいなくて残念だったのは事実なので、埋め合わせ三倍でお願いします」
「うん、します埋め合わせ。本当にごめん」
「私達もよね?」
「あ、はい……お財布大変なことになりそう」
ベイルも便乗して美味いもの食べられそうと目を輝かせているし、もはや行くしかない。
「この流れだとやっぱり祝勝会は迎賓館の最高級レストランだよね?」
「もっちろん!」
「もう予約してあるから心配いらない」
アリスの手回しの速さが時々恐ろしい。
「はい、奢らせていただきます……あわわ」
僕は観念してみんなで教会内にある迎賓館の最高級レストランに向かった。
予約してあったのはやはりというか容赦なく、最上級フルコース。
料理はめちゃくちゃに美味しかったけど、支払った金額も途方もなくてトラウマになりそうだった。
祓魔師の賃金が割と法外でなければ払えなかった、家が一軒くらい建てられる金額。
おそらく二度とこんな豪勢な奢りをすることはないだろう、ないといいなぁ。
なんだかんだで楽しかったからいいか。
みんなと笑顔で過ごせた今日のことは、きっと宝物のような記憶になる。そう思った。




