460回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 260:君の帰る場所(5)
「本当にすみませんうちのベイルが……」
僕は僕とベイルを取り囲んだモンスターや獣頭人達に頭を下げていた。
「やめろよ、お前は俺のとーちゃんかよ」
お父さんこんな感じだったんだ……。となんとも言えない気持ちになりつつ、僕はベイルの首元をこちょこちょする。
「あっ、そこは、らめぇっ」
「ベイルも謝って、ほらほら」
敏感なところをカキカキされて脱力し、ビクンビクンと痙攣して、とろけた顔で天を仰いで舌を出したベイルの後頭部を掴んで頭を下げさせた。
「悪気はなかったんだろうし、許してやるか」
「もう朝飯時に暴れんなよ、みんな同じ量食べることになってんだから」
ようやくみんな許してくれて僕はホッとした。
「ちぇっいいじゃねえか飯くらい、早い者勝ちだろ」
「こらベイル、そんなこと言ってるとこうだぞ!」
「はひぃん!?」
「やっぱり、ベイルって感じやすいんだ」
「ひゃっひゃめろぉ、そこはらめらってぇ」
脇の下から腰の付け根までわさわさっと揉みほぐしていくと、ベイルの尻尾が膨らみピンと立った。
そしてベイルの足がガクガクと震え出して、彼はその場にへたり込む。
「もうしないって約束する?」
ベイルの耳に息を吹きかけるようにそう言うと、彼は全身をビクビクさせ涎を流しながら顔を紅潮させ、うっとりとした様な目で僕を見る。
「しっしない、もうしないかりゃあ……も、やめへぇ〜」
「ベイル可愛い……」
「ひゃんっ」
ベイルの耳を甘噛みすると、彼は可愛らしい声で鳴いた。
なんだかいくところまでいってしまいそうに勢いづいた僕を、ブルーノが無理矢理引き剥がしてその場はことなきを得た。
それからアジトを出て、帰りの馬車の停留所に行くまでベイルは僕を怖がるような、僕のテクニックに虜になったような、微妙な態度でおずおずと僕にくっついて歩いた。
ベイルは本当に元気そうだ、彼のそんな様子が嬉しすぎて調子に乗りすぎちゃった。
馬車が到着し、乗り込もうと近づくと、馬車の中から隷従騎士が降りてきた。
虎の尻尾、そしてこの体格はラングレンのようだ。
「あんたに仕込まれた体術役に立ったぜ」
ベイルはそう言ってラングレンの胸を拳で叩き、馬車に乗り込む。
僕もベイルに続こうとしたが、ラングレンの視線が気になり立ち止まった。
「どうしたんですか、ラングレンさん」
「彼が使った力は危険な物です、教会の者に知られてはならない。あなたから彼に言って聞かせてください」
ラングレンは淡々とそう言った。
「ラングレンさん、貴方は一体」
彼は答えない。
今の僕は彼の正体を知るべきではないという事だろうか。
やはり彼はただの隷従騎士ではないようだ、もしかすると獅子王軍のスパイかも。
危険を冒してそんな事をする彼も、僕に思うところがあるのだろうか。
戸惑いながら彼を見つめると、ラングレンは兜の下で優しい目をしたように見えた。
そして彼は馬車の扉を開き、僕を中に招く。
僕はうなづき馬車に乗り込んだ。
ラングレンも僕の後に続き、扉を閉め座席に座る。
彼が床を一度踏み鳴らすと、馬車はゆっくりと動き始めた。
ラングレンといるとなんだか安心する気がする、今はそれだけでいい。
僕はベイルに体を寄せ、彼の頭を撫でる。
「なんだよ」
「ベイルは良い子だから、褒めてあげようと思って」
「子供扱いすんなってーの」
そう言いながらベイルは心地良さそうな顔をして僕にもたれかかる。
僕はそんな彼を抱きかかえ頭を撫でながら、遠ざかっていくメルクリウスの街を見つめていた。




