459回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 259:君の帰る場所(4)
その日の晩、僕らは客人用の部屋で寝る事になった。
このアジトの主人が僕を連れて帰るのが目的なのだということを感じさせられる。
しかし獅子王が率いていると言うモンスター達は、無理矢理僕を拘束しようとはせず、むしろ協力的だ。
ハイエナ達といい、彼らといい、一体どんな因縁があるんだろう。
「なぁ雄馬、まだ起きてるか?」
ベイルに話しかけられ隣を見ると、彼はじっと僕を見つめていた。
僕は彼に手を伸ばし、その手を握る。
「起きてるよ、こうして二人で寝るの久しぶりだね」
「そうだな」
「寂しかった?」
ベイルは眉間に皺を寄せた。
「何だよその質問」
「教えてよ」
「寂しかなかったけど、お前がいないと落ち着かないっつーか、そんな感じだ」
「素直に寂しかったって言えば良いのに」
「めんどくせっ、お前そんなめんどくさかったっけ?」
空いた手で頭をかきながら、ベイルは僕の手をギュッと握った。
「ベイルはなんでこっちにきてたの?」
「お前の友達連中が、打ち上げだけでも来れないかって聞きにきててな、こっそりこっちに渡って宿屋で寝てたんだ」
「僕が危ないっていうのは」
「ふとお前ならやりそうなことが頭に浮かんで、隠し事やる時に俺らがよく使ってた場所に来てみたら案の定だ。虫の知らせってやつかもな」
「愛の力ですなぁ、むふふ」
「言ってろ」
「ねぇベイル、どこまで気づいてたの」
「ああ、あいつらが俺をどう思ってたかだろ。最初からわかってたよ。でもあいつらの言い分もわかるんだ、親父も馬鹿なことしたよな、俺なんて助けなきゃよかったのに」
そう言うとベイルは消えてしまいそうなくらい悲しそうな顔をした。
「自分のことそんなふうに言っちゃダメだよ、それに何となくお父さんがベイルを逃がそうとした理由わかる気がするんだ」
ベイルは天井を見上げたまま黙り込んでいる。
「ベイルが仲間の中で一番強くなる可能性があるって、わかってたんじゃないかな。生き延びた仲間を守ってもらう為に、ベイルが必要だって思ったんだよ」
「そうだといいんだけどな」
ベイルは僕を見ると優しい顔をする。
「それに僕はベイルと出会えないなんて嫌だよ」
「俺もお前のこと言えねぇな。自分の事おざなりにして、想ってくれてる奴の事忘れちまう」
「似たもの同士なんだよ僕ら」
「ちげぇねぇ」
僕らは笑う。
ベイルの表情がだんだん柔らかくなってきた気がする。
「ベイル、いいかな?」
「甘えん坊だな雄馬は、わかったよ」
僕が体をベイルに寄せると、彼は僕を優しく抱きしめてくれた。
僕も彼を抱きしめ返す。
ベイルを近くに感じて、体の芯から温かい気持ちになっていく。
ハイエナ達の憎しみのように、ベイルも心の中に僕を恨む気持ちがあるのなら。
僕はその気持ちから彼を救いたい。
心中を察したかのように、ベイルは僕の頭を撫でる。
「俺達はあの戦いの後すぐに魔王軍に合流して、故郷に親父達のことを伝えに行くべきだった。故郷のみんなに負け犬扱いされたくなくて、復讐を理由に放浪して、挙げ句の果てにこのザマだ」
ベイルの苦い表情の理由は、変わってしまった仲間達に向けたものに見える。
「つまるところ雄馬のせいにしておいた方が座りが良かっただけ、ただの八つ当たりと一緒だ。だから最初からお前が気にすることなんかなにもないんだ」
それじゃダメなんだ。
「でもそれじゃベイルは……」
ベイルが死んでしまう。
「何を思い悩んでるかは知らないけど、俺はお前と一緒にいられればなんにもいらねえ。本当だぞ?」
ベイルは屈託のない笑顔で言った。
彼が自身の余命を知らないとは思えない、それでも彼は僕がいてくれればいいと言ってくれた。
こんな時に、彼の気持ちを嬉しいと感じてしまうのはきっと自分勝手だろう。
だけどベイルは僕の喜びを待ってくれている。
「ありがとうベイル、大好きだよ」
僕は精一杯の笑顔で彼を抱きしめて泣いた。
今夜が彼といられる最後かもしれない。
僕は一生彼を忘れないように、全身でベイルを感じながら眠りに落ちた。
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「ベイル?」
翌朝目を覚ますと、隣にベイルの姿はなかった。
僕は急いで部屋を出て、部屋の近くにいたブルーノに声をかけた。
「ベイル、ベイル知らない!?」
「あぁ……あいつなら」
ブルーノが神妙な顔つきをして俯く。
「嘘でしょ……」
僕はその場にへたり込む。
わかってたはずだ、覚悟していたはずなのに。
僕は現実を受け止めきれなかった。
「あっちで浮かれて暴れまわってんだよ、ゆう坊なんとかしてくんねぇか」
「へ?」
ブルーノが指を刺した方を見ると、どんがらがっちゃんと、巨大な肉を咥えたベイルが獣頭人やモンスター相手に大立ち回りしていた。
「お!雄馬ぁ!加勢してくれ、お前の分もしっかり確保したから!!」
にひひと笑いながら、大皿にモリモリにした食べ物を見せるベイル。
その体は昨日までの彼とは別人のように健康的で、毛並みもテカテカしている。
「……嘘でしょ?」
僕は現実を受け止め切れず、元気一杯暴れ回るベイルをただ眺めていた。




