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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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456回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 256:君の帰る場所(1)

「「イェーイ!」」


 合格発表の後、劇場の外でほのかと陽介達はハイタッチして喜びの声を上げた。


「まさか身内にアイドルを持つ時が来るとは思ってなかったぜ!」


「私も次のオーディション受けてみようかな」


「わぁいい考え!アリスちゃん可愛いからきっと合格しますよ。伊織ちゃんも受けてみませんか?」


「私は遠慮しとく、作りたいものいろいろあるし」


 苦笑いでそう答えながら、あたりをキョロキョロしている伊織を見て、ほのかは気づく。


「もしかして雄馬くんいなくなっちゃったんですか?」


「そうなのよね、どこ行っちゃったんだろ」


---


 オーディションの結果発表を見届けた後、僕は退出していく人混みに紛れて伊織達と離れ、ブルーノ達のアジトに向かっていた。


「急にいなくなってみんな怒ってるかな」


 でも事情を話したらきっとみんなついてきちゃうだろうし、こうするしか無かったんだ。

 ベイルを死なせるわけにはいかない。

 その為にこの先へは僕一人で行く必要があった。


 アジトの付近で合図の紐を3回2回4回の順で引くと、地面の石畳が沈んでアジトへの入り口が開いた。


「よう、ゆう坊」


 ブルーノが入り口からひょっこり顔を出した。


「今日はベイルは連れてきてねぇのか?」


「具合が悪くて、今入院してるんだ」


「そりゃあ大変だな」


 ブルーノの表情に影が落ちた、モンスターである彼にはベイルに起きている事がわかるのかもしれない。


「その件でベイルの仲間に会いたくて」


「ゆう坊、お前まさか……いや、わかった。連中なら中にいるぞ、案内する」


 アジトに入りブルーノの後ろについて歩く。

 ハイエナ達はアジトの中のみんなと馴れ合いたくないと離れたところにいるらしい。


 薄暗い通路の前に来ると、ブルーノは自分が一緒にいると彼らが逃げてしまうから、この先は僕一人で行くようにと言った。


「ここで待ってるから、何かあったら大声で呼ぶんだぞ」


 そういってブルーノは僕の肩を力強く握りしめた。行かせたくない、そんな意図を感じた。

 僕はブルーノの手を握り、感触を確かめながら撫でる。


「心配しないで、ブルーノ」


「あ、あぁ……ゆう坊は強いしな。過保護って奴かこういうのは」


 そう言うとブルーノは手を離してくれた。

 通路をまっすぐ進んでいくと、暗がりの中にハイエナ達の光る目が見えた。


 彼らは僕をそれとなく取り囲み、僕に気づかれないよう後ろ手に武器を取った。

 この状況ならナイフあたりだろう。

 嫌われてるな、復讐の対象なんだから当然か。


「ここじゃそっちにも不都合でしょ、表に出て人目につかないところに場所を移そう」


 僕の提案に賛同した彼らは、まず二人が先行し、残り二人が僕を監視する形でアジトを出て、廃墟区画へと向かった。


 先行した二人は僕が彼らを罠に嵌めようとしていないか確認するための斥候役だったらしく、安全確認を終えた後に合流し、今度は堂々と武器を構えて僕の逃げ道を塞いだ。


 話を聞いてくれない場合のことは失念していたので少し冷や汗をかいたが、彼らの代表の一人が前にでて口を開いた。


「それで、祓魔師殿が俺達に何の用だ」


「ベイルを助けて欲しい」


「ふん、ここにお前がいるって事はそういう事だろうな」


 ハイエナ獣人の一人が仲間に「どういう事だ?」と小声で耳打ちした。

 耳打ちされた側はうんざりしたような表情をして口を開く。


「ベイルが裏切ったって事だよ、群れからはぐれると俺たち死んじまうだろ」


 それを聞いて彼はなるほど、と拳で手のひらを打ち、大声を出した。


「裏切り者なんて死ねばいい」


 その言葉に僕の胸が痛む。

 僕のせいでベイルの仲間にそう言われる状況を作ってしまったのだ。


「まぁまて、せっかくの申し入れだ、聞いてみてからでもいい。なぁあんたどこまでアイツのために犠牲を払える?」


 代表のハイエナ獣人は品定めするように僕の顔を覗き込み、うっすらと笑う。


「僕にできる事なら何でもするつもりだよ」


「ははっそうだよな、それが一番手っ取り早い、あいつを救うにはな」


 ベイルを救うための筋道は現状一つだけだ。

 ベイルが奴隷身分から解放され、都市に戻り、ハイエナ達に受け入れてもらう事。


 そのための最短ルートは主人である僕がいなくなる事、その理由が復讐の成就であれば交換条件にはちょうどいい。


「本気なんだよな?あいつの為に命捨てるつもりか?」


「ベイルにはたくさん借りがある、それくらいしなきゃ釣り合わない」


 僕の言葉に偽りなしと見たか、ハイエナ獣人はにいっと凶悪な笑みを浮かべ、顎をしゃくり仲間に僕の身体検査をさせた。


 僕が丸腰なのを確認すると、僕らは廃墟区画のもっと奥、他者の邪魔の入らない場所に向かって歩き始めた。


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