453回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 253:歌姫オーディション(11)
今日はオーディションの日だ。
僕達は客席でほのかの番を待っている。
小国程度の規模の都市のわりに全体的にレベルが高い。
だけどほのかにもチャンスはある。
今日までにやれることは全てやってきた、あとはほのか次第だ。
「頑張ってね、ほのか」
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舞台裏でほのかは深呼吸し、振り付けと歌詞をイメージで再確認していた。
「よし、大丈夫」
そう言うと、ほのかは雄馬からお守りにもらった雄馬人形マークIIを握りしめる。
「みんな綺麗なドレス、それに歌も、踊りもすごい人ばかり……」
ほのかはあたりを見回し、周りの様子に気圧されそうになった。
しかし彼女のドレスも伊織とアリスと一緒に作った自信作、それにアイドルオタクの陽介の厳しい審査、雄馬の絶え間ない応援を経てここにいる。
今までの日々の記憶が彼女を奮い立たせた。
ふと一人の少女の姿が彼女の目に入った。
「あれ、あなた確か伊織ちゃんの後輩の」
ミキノはほのかにジトッとした視線を向けた。
ほのかは自身の声が大きすぎたのだと思い、口に手を当てミキノの側によると、小さな声で話しかける。
「あなたもきてたんだ」
ミキノはほのかから目を逸らし、舞台を見つめる。
「帰りなよ、その方があなたの身のためだよ」
と、冷たく言った。
「自分が他人の評価を受けるのって怖いよね、現実を突きつけられて後悔するかもしれない」
ほのかは自分に確認するように口にする、しかしもう彼女の決意は揺るがなかった。
「だけど私は試したいんだ、私がどこまでやれるのか。それにここまで来れたのは私一人の力じゃない、力を貸してくれた人達のために私は歌うの」
ほのかはミキノの手を握って握手をした。
「お互い精一杯頑張ろうね!」
ミキノがほのかに握られた手を見つめ、静かにほのかの顔に視線を移した。
「良い度胸してるねあなた、それなら舞台で潰してあげる」
そう言うとミキノは自身の名を呼ばれ、ほのかの手を振り解き舞台に向かっていった。
「なんだろう、私。ワクワクしてる?」
思わぬライバルの出現にほのかの中で熱い何かが燃え上がる。
怯えてばかりだった自分はもういない、今はただ純粋に舞台で歌うのが楽しみだ。そう彼女は感じていた。
胸のときめきが抑えきれずほのかは舞台を見つめて笑顔を浮かべた。




