452回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 252:暗澹たる壊楽
「ひでぇよぉ……痛ぇよぉ、どうして俺がこんな目に」
殴られた頬をさすり、しょぼくれながらヤスが歩いていると、ミキノが彼の前に現れた。
「どけよ鍛治職、俺は今機嫌が悪いんだ」
威嚇するヤスに対し、ミキノは微笑を浮かべて近づき、キスしそうなくらいに顔を近づける。
「なっな、なにを」
赤面しドギマギしたヤスの隙をついて、ミキノは近くの物置部屋に彼を押し込め、後ろ手に扉に鍵をかけると、ヤスを壁まで追い詰め、体を密着させ、股間に太ももを擦り付ける。
「ひっひぃ」
何が起きているのか理解できず混乱するヤスに、ミキノが吐息をかけると、ヤスの脳はその甘い香りにとけて思考を緩めていった。
「私知ってるよ、ヤス君将冴君の事信頼してるからアバター化せずに側にいるんだよね?」
「あ、ああ、そうだ。信頼してるってわかってもらいたくて……」
「裏切られて悲しいでしょう?こんなアザまで作られて、可哀想なヤス君」
「あ……はぁ」
ミキノに頬のアザを撫でられると、ヤスの全身に痺れるような快感が走った。
「ねぇ私はわかってあげられるよ。ヤス君がどんな気持ちだったか、将冴君にわかって貰おうよ。それがいいよ」
「あの人が俺の話聞く事なんて……」
ミキノはヤスの胸を撫でて彼の言葉を塞ぎ、灼けつくような目つきでヤスの目を見つめた。
「大丈夫、やり方は私が教えてあげる。代わりに私のお願いも一つ叶えて欲しいんだ」
「俺に出来るかな……」
「できるよ、ヤス君は本当はすごいんだ、将冴君なんかよりずっと強いんだよ。私が力を引き出してあげる」
ミキノはそう言うと、吐息をヤスの口に吹きかけ、それを吸ったヤスは全身を弛緩させ、虚な目を宙に泳がせる。
「わかった、やるよ」
「良い子ね」
ミキノがヤスを撫でると、彼は幸せそうな顔でへへへと笑う。
ヤスはミキノが彼の体に魔石を押し当てていることに気づかないまま、その魔力に精神を蝕まれ、脱力していった。
その様子はさながら蜘蛛に囚われ毒液を流し込まれた虫のようにも見える。
「私がヤス君の居場所になるよ、大切にしてあげる、だからヤス君は私の物になってね」
「わかった……」
「素直で良い子、可愛いよヤス君」
ミキノがヤスの首に噛みつき血を流しても、ヤスは抵抗すらせず自身の全てをミキノに委ねていた。
ミキノはヤスの首の傷から溢れる血を舐め取り、ヤスの唇を噛みながら、魂を奪い取るようなキスをした。
ミキノの目が微かに赤く輝き、彼女の影に悪魔の翼のようなものが伸びていく。
しかしその時、それを見るものは誰一人いなかった。




