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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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451回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 251:君と出会えたこと

「よっ」


 教会病院から出てくると伊織が待っていた。


「まさかこんな時間までお見舞いしてるなんてね」


「待たせちゃってごめん」


「勝手に待ってただけだから気にしないで、眠れなくて、あんたの顔見たかったんだ」


「歩きながら話す?」


「この時間なら人もいないしね」


 僕らはお互いに話すきっかけを探しながら、夜の静けさの中を歩いていく。

 先に口を開いたのは伊織だった。


「ベイルの具合どうなの?」


 僕は首を横に振り、それを見た伊織がそっかと言って俯く。


「毒は抜けたんだけど、ベイルの種族的な特性で、衰弱してるんだって」


「それで世界の終わりって顔してるんだ」


「そんな顔してる?」


「青白い顔してる、あの時みたいに」


 見晴らしの良い高台に来て、伊織は手すりを掴んで身を乗り出した。

 ここからはメルクリウスの都市がよく見える。

 深夜だというのに灯がたくさんあって、とても綺麗だ。


「最初にあんたに会った時も、おんなじ表情してた」


 伊織は僕の顔を覗き込む。


「ほっといたら壊れそうな顔して、あんたは教会を眺めてた」


 伊織の言葉で朧げに彼女と初めて出会った時のことを思い出す。

 そういえばあの日もこんな夜だった。


「あの頃なにをして生きていけばいいかわからなくて、不安だったからね」


 死んだと思ったら突然聖堂の中で目覚めて、守門(ポーター) の仕事と家を与えられ、生活はしていけたけれど。

 見知らぬ場所、見知らぬ世界で、一人きりで生きなきゃいけない不安に押しつぶされそうだった。


「たった一人でその不安を抱えて生きてくんだって思ってた。そんな時に君が声をかけてくれた」


「覚えてたんだ」


「うん、嬉しかったからね。誰かから優しくされるなんて子供の頃以来だったから」


「あんた私の武器のこと褒めてくれたじゃない、それで少し機嫌が良かっただけよ」


 アバターになれない僕には山刀の他に伊織の武器が支給されていた。

 それを腰に刺していた僕に、伊織は使い心地はどう?と声をかけてきたのだ。


 僕は使いやすくて良い武器だと言うと、彼女はとても喜んで、それから僕らの付き合いが始まった。


 スキルを使わず、わざわざ鍛治を行い装備を作る彼女を、非効率だと言って誰も認めなかった。

 だから僕の率直な意見が嬉しかったのだと伊織は言った。

 他人から理解されない、その点において僕らは案外似たもの同士だったのかもしれない。


「ねぇ雄馬、年齢教えて」


「プレイヤー同士の過去生の詮索はご法度だって聞いたけど?」


「他人って間柄じゃないでしょ、私達」


 伊織の瞳の中で光が微かに揺れている。

 彼女を信じて、僕は自分が誰なのか打ち明けることにした。


「25才だよ」


「本当に?18くらいかと思ってた、私の方が年下なんだ」


 伊織は何かに気づき、僕を見た。


「その年齢ってもしかして、あんたあの山桐雄馬なの?」


「そう、あの山桐雄馬。悪名高い犯罪者の息子」


「そっかぁ……雄馬大変だったんだ」


「前の世界でのことは自業自得だから仕方ないよ」


「小さい子供取り囲んで、あんなリンチみたいな報道する人達がおかしいんじゃない?あの状況でお父さんを庇ったあんた少しかっこよかったよ」


「伊織はそう思ってくれたんだ」


「なによ嬉しかった?」


 伊織はにんまりしながら僕に尋ねる。

 前の世界で伊織にもし会えていたら、僕は違う人生を歩めていたかもしれない。


 価値観を他者に迎合せず、我が道をひた歩く。

 僕は伊織のそういうところが好きだ。


「伊織はずっと伊織なんだね、なんか安心した」


「良いとも悪いとも言えない微妙な言葉じゃない?」


「褒めてるんだよ」


「本当にぃ?」


「ほんとほんと」


「じゃあ信じてあげるとしますか」


 さっきまで寂しくて冷たかった夜が、今は楽しい気持ちに彩られた、心地の良いひとときになっている。

 僕はみんなに救われてる、そう実感した。

 

「あの日あの場所に君がいてくれてよかった。じゃなきゃ僕はひとりぼっちだったかもしれない」


「私も、あんたと会えてよかった。自分の知らない自分をたくさん知ることができたもの」


 そう言うと、伊織は僕の体にもたれかかった。


「少し冷えるからさ、こうしてても良い?」


「うん、僕もこの方が暖かいし」


「私達このままずっと一緒にいられたら良いよね」


 幸せな時、安らぎを感じる関係を得られた時、誰でもこのままでいたいと願うものだ。

 そしてそれはいつでも叶わない儚い願いに終わってしまう。

 だけど僕は伊織と自分の今の気持ちを大切にしたい。


「ずっと一緒だよ、僕たち友達だろ」


「そうだね、友達だもんね」


 伊織は少し寂しげな顔をすると、僕の腰を掴む。

 僕は彼女が寒くないように肩を抱き寄せた。



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